「ただいま」

 保健室に戻った私は、ベッドに座った弓槻くんに言った。

「……どうなった?」

「ちゃんと話してきた。でも、彼とはもう、どうもならない。私は鳴瀬琴葉。月守風香じゃない」

「……それでいいのか?」

「うん。風香も、応援してくれてるみたい」

「そうか。それで?」

「それでって?」

「さっき、俺が言ったことについて、返事をまだ聞いていない」

 顔が熱を持つのがわかった。
 弓槻くんもこころなしか、頬が赤くなっている気がする。

「え、だって、返事って……」

 そういうの必要ない雰囲気だったじゃん。

「どうなんだ?」

 でも、一歩踏み出さないと、何も始まらない。

 恋愛的な意味での〝好き〟にはまだ遠いかもしれないけれど、弓槻くんは優しくて頼りがいのある男の子だ。
 そんな素敵な人が、私なんかのことを好きだと言ってくれている。

「……あの、お友達から始めてみてもいいですか?」

 勇気を振り絞った結果、出てきた台詞だった。

 弓槻くんはベッドから降りて、無表情で私に歩み寄る。

 そして――強く私を抱きしめた。

「あの、えっと……お友達からって……」

 口ではそういったものの、まったく嫌だとは感じなかった。

「許せ。今日くらいはいいだろう」

 運命の人でもなんでもなかった彼は、私の耳元でそう囁いた。