榮槇先生は――シロちゃんは、私のことを見ているわけではない。
彼が見ているのは、月守風香だ。
でも弓槻くんは、月守風香ではなく、今の私を、鳴瀬琴葉を好きだと言ってくれた。
だから私は――。
でも、本当にそれでいいの?
月守風香は、来世でもシロちゃんと一緒に生きていたいって、そう強く想いながら死んでいった。
その切実な祈りを、私は自分が体験したことのように知っている。
そんな迷いが生じた瞬間、優しくて柔らかい風が吹いた。
思えば、すべてのきっかけは風だった。
私に前世の記憶がよみがえってきたのも、弓槻くんがシロちゃんの生まれ変わりではないと判明したのも。
もしもあのとき、風が吹いていなければ――。
私は運命どおり、何も知らないまま榮槇先生のことを好きになって……。
今の風は『自分の運命は自分で決めろ』という風香からのメッセージなのかもしれない。
彼女は、すべてを明らかにした上で、私に選択肢を与えているんだ。
おかげで、決心がついた。
私の運命は、私が決める。