私は、運命の相手であるシロちゃんと榮槇先生、二人の男の人を好きになってしまったと思っていた。

 その事実に、罪悪感を抱いていた。

 でも、私が好きになった榮槇先生こそが運命の人で――。

 迷うことなど何もないはずなのに、私はどうしてか、うなずくことができなかった。

「……少し、考えさせてください」

 気づくと私の口からは、そんな台詞が発せられていた。

 恋に落ちた相手が、運命の相手。
 こんなに素晴らしいことってないはずなのに……。

「わかった。鳴瀬さんが一番幸せになる道を選んでほしい。その答えがたとえ、僕じゃなくても」

 その優しさと儚げな笑みが――記憶の中のシロちゃんと重なった。

 榮槇先生は私の横を通って、屋上を出て行った。
 私はその場に立ちすくんで、階段を降りる彼の足音を聞いていた。

 私が一番幸せになる道……。

 弓槻くんも私に同じようなことを言った。

 愛というのは、相手の幸せを願うことである。
 いくつかの小説に、そんな感じのことが書いてあった気がする。

 私は今初めて、その言葉の本質を理解した。