私は、たくさんの想いを抱えて廊下を歩いた。
亡くなるその瞬間まで恋人を想い続けた、月守風香の一途な想い。
こんな私を好きだと言ってくれる、弓槻くんの秘められた想い。
そして、私自身の想い。
向かった先は屋上だった。
扉を開けると、榮槇先生と、数人のスーツを着た男が立っていた。校舎で何度か見かけたことのある顔もあった。おそらく事務の人たちだろう。
フェンスが壊れた部分には応急処置としてロープが張られ、さらにその周りに赤いカラーコーンが設置されている。
ちょうどいいタイミングで、スーツの男たちがこちらに歩いてきた。会釈を交わす。彼らは私の横を通り過ぎて、屋上から撤収していく。
最後に、榮槇先生がやって来た。
「あれ、鳴瀬さん。どうしたの? 弓槻くんは?」
「目を覚ましました。大丈夫そうです」
「それはよかった」
榮槇先生は爽やかな笑みを浮かべる。
私の心臓は、張り裂けそうなほどに脈打っていた。
「先生、大事なお話があります」
ここからが本番だ。
ケアレスミスはしていないか、もう一度確認する。
あの日、バスに乗っていたのは――。
――このクラスは三十七人で奇数だから、それでちょうどいいでしょ?
――バスに乗るのは皆さんと先生だけです。
生徒たちが三十七人、羽酉先生、そして、弓槻くんの前世である運転手の天乃さん、すべて足して三十九人。
だが、弓槻くんと見たネットのニュースでは、死亡者は三十八人となっていた。
そう。
この事件には一人だけ、生き残りがいるのだ。



