「わかった」
この話を聞いたら、心が揺れてしまう。
そんな予感もした。
けれどそれ以上に、聞いておかないとダメだという気持ちの方が大きくて。
私はもう一度、椅子に腰を下ろした。
弓槻くんは、大きく息を吸った。
そして、私の目を真っすぐ見据える。
この鋭い視線が、数日前は怖かった。
でも今は、その内に秘められた優しさを、十分すぎるほどに知っている。
「俺が君を好きな気持ちは今も変わらない。もちろん、前世の記憶を抜きにしての話だ。でも、君には自分が一番幸せになる道を選んでほしい。そしてもしも、君を幸せにできるのが俺だと思ったら、もう一度ここへ戻って来てほしい。俺は、待っている」
弓槻くんが口にしたのは、世界で最も不器用で優しい冗談だった。
冗談だと前置きしたのは『待っている』という言葉をあまり重く考えるなという、彼なりのメッセージだろう。
残念ながらバレバレだ。
でも、弓槻くんが私を本当に大切に想ってくれていることも伝わった。
私にとっても、弓槻くんはかけがえのない人だ。
「ありがとう」
それだけ言って、私は最後の答え合わせをするために、保健室をあとにした。



