「あの事故の記憶だった」
ってことは、やっぱり弓槻くんはシロちゃんの生まれ変わりなんじゃ……。
「あの事故っていうのは、月守風香が亡くなったバスの事故のことだよね?」
「ああ。前世の俺も、瓦礫の下にいた。シロちゃんではなく、事故に巻き込まれたバスの運転手として」
予想外の人物の登場に、私は困惑する。
「運……転手?」
「そうだ。名前は、天乃徹。腹部に、大きくて鋭い瓦礫の破片が刺さって、全く身動きがとれなかった。手や足の感覚もほとんどなく、正常に動作していたのは、聴覚だけだった。自分の人生はここで終わる。そう思いながら、ある会話を聞いたんだ」
「会話? もしかして――」
「月守風香とシロちゃんの会話だ。君が、最初に俺に話した通りの内容だった。それを聞いて、なんてことをしてしまったんだろうと思った。たくさんの若者たちの未来を潰してしまった。尊いその命を奪ったのは、運転手の自分だ。重大な責任を感じた。死んでも死にきれないと、本気で思った」
弓槻くんは、つらそうな口調で話すのを、私はただ、じっと聞いていた。
「女の子が、男の子の名前を呼び続けていた。男の子の声は、もう聞こえなくなっていた。そんな悲痛な叫び声を聞きながら、死ぬ間際に、この子たちだけは助けてあげたい。自分も生まれ変わって、彼らを引き合わせてあげたい。そう強く願ったんだ」
数秒間の静寂が場を支配する。
重く、痛々しい沈黙だった。



