考える間もなく、反射的に体は動いた。
右手で折れていない鉄の棒を、左手で彼の左手をつかみ、グッと引き寄せる。
普段の私からは信じられないほどの反応速度だった。
もしかすると、私が右手でつかんでいる鉄の棒も折れてしまうかもしれないと思ったけど、他につかむところなんてない。
弓槻くんが軽かったことも幸いし、なんとか引き上げる。
下の方から、ガシャン! という音が聞こえた。折れた鉄の棒が落ちたのだろう。
同時に、たった今引き上げたばかりの弓槻くんの体が、ドサリと崩れ落ちた。
「弓槻くん⁉」
彼は気を失っていた。
目の前で人が気を失うところなんて初めて見た。どうすればいいんだろう。
私はすっかり動揺してしまって、後ろから人が近づいて来ていることにも気づかなかった。
「鳴瀬さん⁉」
呼ばれて振り返る。
「榮槇先生!」
「屋上から何か落ちたみたいだったけど、大丈夫だった?」
「はい。でも弓槻くんが……」
榮槇先生は、コンクリートの上に横たわる弓槻くんに近づいて、抱き起こした。彼の口元に耳を当てる。
「呼吸はしているみたいだから、大丈夫。びっくりして気を失ってしまっただけじゃないかな」
「よかった」
改めて他人から言われると、安心できる。
「とりあえず、保健室に。弓槻くんは僕が運ぶけど、鳴瀬さんは歩けそう?」
「はい、大丈夫です」



