夏の風の記憶に、君と運命の恋を探す


「いきなり、そんなこと言われても……」

 どうすればいいのかわからない。

 この場から逃げてしまいたい気持ちをグッとこらえて、落ち着くように脳に言い聞かせる。

 でも、心臓は激しく動いているし、思考回路は壊滅状態だ。

「もちろん、すぐに答えてくれなくていい。でも、君には俺の気持ちを知っていてほしい。それに、俺はシロちゃんの生まれ変わりとして、月守風香のことを好きと言っているわけではない。たしかに最初にひかれたのは、前世のことがあったからだと思う。ただ、こうして一緒にいるうちに、今の君のことが好きになったんだ。俺は、弓槻架流は、今の君のことが、鳴瀬琴葉のことが好きなんだ」

 一気に色々なことがありすぎて、理解が追い付かない。

 四人の中にシロちゃんの生まれ変わりはいなくて、でも弓槻くんが実は五人目の候補者で、その弓槻くんがシロちゃんの生まれ変わりで。

 弓槻くんが私のことを好きで……。

 全く予想していなかった展開が、思考と言葉を全て奪い去っていく。

 何も言えないでいる私だったが、弓槻くんはずっと待ってくれている。

 私が口を開きかけたときだった。

 突然、強い風が吹いた。

 月守風香の記憶が最初によみがえったときを思い出す。

 自転車で転んで、車にひかれそうになったときに吹いた風だ。

 あの風に似ているな、とぼんやり思った次の瞬間。

 金属が砕ける音がした。

 弓槻くんの寄りかかっていたフェンスが、いきなり折れたのだ。

 人が落ちることのないように設計されていたフェンスに、ぽっかりと空間ができた。

 その空間を通って、弓槻くんの上半身が空中に放り出されるのを、私は見た。

 世界がスローモーションに感じられて、彼が目を見開いているのもはっきりとわかった。