「それに、先端恐怖症の人間は、尖ったものはなるべく視界に入れたくないんだ。それがたとえ、自分の前髪でもな」
與くんの前髪は、明らかに彼自身の視界に入るような長さだ。
「ちなみに、彼は先端恐怖症ではない。恐怖の対象は刃物だ」
「刃物……恐怖症ってこと?」
先ほどの衝撃からどうにか復帰し、やっとの思いで言葉を絞り出す。
「そういった名前があるかどうかは俺も知らないがな。彼が前髪を長くしている理由は知っているか?」
それなら知っている。
「小学生のときに、彫刻刀でできた傷がおでこにある……んだよね」
彼はそう言っていた。
その傷を隠したくて前髪をわざと長くしているとも。
「ああ。図工の授業中に、手が滑って彫刻刀を宙に飛ばしてしまった。彫刻刀の刃の部分が前頭部に命中してしまい、深めの傷ができたということだ。そのときから、刃物が怖いらしい。つまり、彫刻刀を使えていた與時宗は、シロちゃんの生まれ変わり候補から外れる」
「そ……んな」
それじゃあ……。
――不可能を消去して、最後に残ったものがいかに奇妙なことであっても、それが真実となる。
藍梨のその言葉通りであれば、最後には誰も残らず、シロちゃんの生まれ変わりは、私の学年にはいないことになってしまう。