一つ、深呼吸をはさんで、私は話し始める。
「まずは月守風香の記憶から、シロちゃんが本当に苦手なものを見つけた」
「本当に苦手なもの? 猫じゃなくてか?」
弓槻くんは驚かない。
むしろ、挑戦的な眼差しをしていた。
「シロちゃんが私のところへ逃げてきたのは、女子生徒が猫の前足をつかんでいたとき。猫を抱いた女子生徒が教室に入ってきたのはもっと前なのに、どうしてそのときに逃げて来なかったんだろう。矛盾しているわけじゃないけど、少しおかしい気がする」
「我慢してただけじゃないのか?」
「もちろん、それも考えられる。でも、もっと納得のいく説明ができるの。シロちゃんが月守風香と初めて出会ったとき、サボっていた授業は、家庭科の裁縫の授業だった。月守風香がシロちゃんに告白したときの記憶で、彼が使っていたのは先の丸い鉛筆」
昨日まで、月守風香の記憶の中で、頭の隅に引っかかっていた違和感たち。それらを並べ立てる。
さらに、弓槻くんにはまだ話していないけれど、今朝の記憶にもおかしなところがあった。
雨の日に帰るとき、徒歩であるにもかかわらず、二人とも傘をささずにレインコートを着用していた。
「それで?」
弓槻くんが先を促す。