通話モードにして、スマートフォンを耳に当てる。
「はい、鳴瀬です」
〈あ、鳴瀬さん? 燈麻です〉
「何か、あったんですか?」
チョコはすでにこの世からいなくなってしまって、黒猫の情報はもう求めていない。
〈あの……。七月の二十四日って、空いてる?〉
緊張の滲む声。
「空いてます……でも、どうしてですか?」
〈その日、大会があって、見に来てほしいんだけど……〉
燈麻くんの大会を? それって……。
――君のことが好きなのかもしれないな。
私の脳内に突如、弓槻くんが現れた。
バカ! 私の頭の中から帰れ!
まあでも、せっかく誘われたんだし、見に行くだけなら別にいいか。
「はい。大丈夫ですよ」
〈本当に!? ありがとう。それで、澤幡さんを誘って欲しいんだ〉
藍梨を?
「どうしてですか?」
聞きながら、なんとなく話の流れが見えてきた。
〈実は……俺、|澤幡さんのことが気になってて……〉
ああ、そっちか。そりゃそうだよね。藍梨、かわいいもんね。
つまり、私はただの協力者ってわけか。外堀から埋める作戦だ。
「わかりました。誘ってみます」
はぁ、ドキドキして損した。
そういえば、体育館で恋バナもしていたな。燈麻くんの好きな人って、藍梨だったのか。
私のことを覚えていてくれたのも、藍梨と仲がよかったから。
別に、落ち込んでなんかいないけど、なんとなくむなしい気分。