先ほどの医者の言葉を思い出す。
――ショックで気を失っていただけのようです。
――トラックとの接触はありませんでしたし。
そっか。私、死んでないんだ。
あれ、でもおかしいな。私は、一度死んでいるはず。
両手を目の前に持ってくる。手のひらには、擦りむいた傷があるけど、たいしたことはない。透けてもいないし、私はここにちゃんと存在している。
トンネル事故。バスが大破。瓦礫に押し潰されて――。
目の前には、今にも息絶えそうな男の子。私の大切な人。
でも、顔は思い出せない。
名前は、シロちゃん。
――僕らはまた、出会える。何度生まれ変わっても、また。
これは、鳴瀬琴葉が生まれる前の、わたしの記憶。
その記憶でのわたしの名前は、月守風香。
これってつまり……前世の記憶を、思い出した!?
「それでは、検査をしますのでこちらに」
看護師さんが笑顔で促す。
「は、はい」
私は慌てて返事をする。
そんなはずがない。前世なんて、あるわけがない。
この記憶は、きっとただの夢だ。夢にしてはちょっと鮮明な気もするけど……。きっとそのうち薄れていくに違いない。それに、まだちょっと、頭がボーッとしているだけだ。
必死で自分にそう言い聞かせて、平常心を保とうとした。