先ほどの医者の言葉を思い出す。

 ――ショックで気を失っていただけのようです。

 ――トラックとの接触はありませんでしたし。

 そっか。私、死んでないんだ。

 あれ、でもおかしいな。私は、一度死んでいるはず(●●●●●●●●●)

 両手を目の前に持ってくる。手のひらには、擦りむいた傷があるけど、たいしたことはない。透けてもいないし、私はここにちゃんと存在している。

 トンネル事故。バスが大破。瓦礫に押し潰されて――。

 目の前には、今にも息絶えそうな男の子。私の大切な人。

 でも、顔は思い出せない。

 名前は、シロちゃん。

 ――僕らはまた、出会える。何度生まれ変わっても、また。

 これは、鳴瀬琴葉が生まれる前の、わたしの記憶。

 その記憶でのわたしの名前は、月守風香。

 これってつまり……前世の記憶を、思い出した!?

「それでは、検査をしますのでこちらに」

 看護師さんが笑顔で促す。

「は、はい」

 私は慌てて返事をする。

そんなはずがない。前世なんて、あるわけがない。

 この記憶は、きっとただの夢だ。夢にしてはちょっと鮮明な気もするけど……。きっとそのうち薄れていくに違いない。それに、まだちょっと、頭がボーッとしているだけだ。

 必死で自分にそう言い聞かせて、平常心を保とうとした。