「ちょっ、弓槻くん……?」

 私は驚いて彼の元へ近づいた。
 弓槻くんのシャベルを持った手が、ブルブルと小刻みに震えていたのだ。

「ああ、なんでもない……」

 呼吸も荒くなっているのがわかる。

「なんでもなくないよ。休んでて。私が掘るから」

 猫とはいえ、チョコは弓槻くんにとって大切な存在だったはず。
 相当つらいことが察せられる。

「大丈夫だ」

「手も震えてるし、呼吸だってつらそうじゃん。無理しないで! ダメなときはダメって言ってよ! ……あ、ごめん」

 思わず強い口調になってしまい、自分でも驚く。

「……わかった。申し訳ないが、頼めるか?」

 弓槻くんはシャベルを地面に置いて、頭を下げた。

「うん」

「チョコはここ最近、よくつらそうにしていたんだ」

 地面を掘る私の隣で、弓槻くんは喋り始めた。
 ボソボソと、聞こえるか聞こえないかくらいの声量。

「でも、君と初めて会った日。あの日だけは、なぜか元気だった。まるで、君に会ったことで役目を果たしたかのようだった。……すまない。君を責めているわけではないんだ」

 私は、返事をしなかった。
 弓槻くんがどんな言葉を望んでいるのかわからなかったし、返答など最初から求めていないような気もした。

 代わりに、黙々と穴を掘った。スコップは先が尖っていて掘りやすく、穴はすぐに大きくなった。