ただ単に、人とかかわることが面倒なだけなのかもしれない。

 弓槻くんだったら、過剰に喋ったり絡んできたりしないから、普通に付き合ってるってことかな。

 そんなことを考えて油断していたときだった。

「それと、そこの女」

 そこの女⁉ 初対面の女子生徒を〝そこの女〟呼ばわり……。

「な、なんですか?」

 苛立ちを抑えて冷静に反応する。

「あまり架流(かける)に指を向けるなよ」

 架流? 最初は誰のことかわからなかったけど、すぐに弓槻くんの下の名前が架流だったことを思い出す。

 私が思っているより、二人は親密なのかもしれない。

 それに、指を向けるなって、どういうことだろう? 失礼だからかな。
 でも『架流に』って言ってたから、弓槻くんだけ特別?
 ううん、よくわからないや。

 私が戸惑っている間に、伊凪くんは部室を出て行ってしまった。

「悪いな。ああいうやつなんだ。よく誤解されるが、根はいいやつではある」

 ため息をついて、弓槻くんが言った。

 いいやつの範囲が広すぎません?

「ああ、うん。ちょっと苦手なタイプかも」

 本当はかなり苦手だと思ったけど、少し控えめに言っておく。

「それより、霊力の高い黒猫が、みたいな話はしなくてよかったの?」

「あいつは俺の研究している内容を知っている。それに、もう黒猫の話はする必要がなくなった。だから今回は、君に洸と少し話してもらえればそれでよかった」

 たしかに、弓槻くんのオカルト研究のことについても言及していた。

 でも、猫の話をする必要がなくなったって、どういうことだろう。
 なんだか嫌な予感がする。