「どうした? 俺の顔に何かついてるか?」
「いや、なんでもないです」
眼鏡のレンズの奥から覗く、伊凪洸の鋭い視線に委縮してしまう。
この前、榮槇先生と一緒にいたよね、なんてわざわざ言う必要もない。
あのときは、彼の父親の話もしていた。すると、伊凪くんの父親と榮槇先生は知り合いということになる。どんな関係なのだろう。
そしてつい数分前、榮槇先生に助けてもらったことをふと思い出して顔が熱を帯びる。今は関係ない、と頭の片隅に追いやった。
そういえば、伊凪洸という文字の並びには、どこか既視感があると前から感じていたけれど、テストの順位表だと気づく。
この高校では、定期テストのたびに、上位五十人の名前が廊下に貼り出される。
私も何度か名前が載ったことがあるけど、伊凪洸という名前は毎回のように、それもかなり上位に載っていた覚えがある。
嶺明高校はギリギリといえ、それなりに偏差値の高い高校なので、その中で上位をキープし続けることは、決して簡単なことではないはずだ。
「というか、お前もよく飽きないな。研究の成果はどうなんだ?」
私が色々と考えている間に、雑談が始まっていた。
「オカルトは、知れば知るほど謎が増えていくからな。探求心をくすぐられるんだ。成果はぼちぼちといったところか。洸もまたいつでも来てくれ」
「来るとしても秋になるな。夏だとここは暑くてやってられん」
人間が嫌いとか言っていたからどんなアウトローな人かと思ったけれど、案外普通に話しているのを見て拍子抜けした。