怖い男子生徒のなるべく遠くを通って、弓槻くんの元へ回り込んだ。
 そして、彼にビシッと人差し指を向ける。

「ちょっと、私を知らない男の人と一緒にするなんて、どういうつもり? 怖かったじゃない」

 私が勝手に部室に入って、勝手に怖がっていただけなのに、なんて理不尽な怒り方なのだろう。自分ではそうわかっていても、文句を言わずにはいられない。だって怖かったんだもん。

「あ、ああ。すまない」

「ううん、私の方こそごめんなさい」

 一歩下がり、素直に頭を下げる。

「それで、あの人は……」

 怖い男子生徒は、私と弓槻くんのやり取りを黙って見ていた。

「紹介する」

 言いながら、弓槻くんは男の隣に移動する。

伊凪(いなぎ)(こう)だ」

 この人が、シロちゃんの生まれ変わり候補の最後の一人――。

「洸、猫は嫌いだったよな」

 私と弓槻くんと伊凪洸は、三人でテーブルを取り囲んでいた。

「猫というか、生物が嫌いと言った方が正確だな。まあ、どんな生物でも人間よりは好きだが」

 低く渋い声で、伊凪洸は答える。
 何それ。怖い。

「そうか。お前の人間嫌いも相変わらずだな」

「聞きたいことはそれだけか? 勉強があるからもう帰るぞ」

 勉強という言葉でピンときた。

「あっ!」

 おととい、榮槇先生に質問をしていた男子生徒だ。
 見たことがあるのもうなずける。