「いやぁ、さすがマキマキ。生徒のピンチを救うなんてやるじゃん」

澤幡(さわはた)さん。先生をあだ名で呼ばない。それから敬語を使いなさい」

 怒っている風ではなく、教師という立場上、言うべきことを反射的に口から出しているイメージ。表情も穏やかである。

「もぉ。堅苦しいなぁ。そんなんだから三十一歳にもなって独身なんだよ!」

「ちょっと待って、その情報はどこから仕入れてきたの⁉」

 榮槇先生は珍しく困っている。けれど、藍梨も本気で言っているわけではない。本当に堅苦しい教師には、そんなことは言えないだろう。

「まあまあ。そんなことより、か弱い女の子が重い荷物抱えて歩いてるんだけど。一人の男として何かすることないの?」

「そうだね。鳴瀬さん、一つ貸して」

 そう言って、私の持っていた段ボール箱のうちの一つをひょいっと取り上げた。

「あっ、ありがとうございます」

「ちょっと~。マキマキ~、私のも!」

 藍梨が背伸びをして、段ボール箱を両手で抱えたまま、上の箱を頭突きで器用にずらして、榮槇先生の持っている箱の上に重ねた。

「はいはい、わかったから」

 それなりに重さのある段ボール箱を、榮槇先生は軽々と運ぶ。

 半袖のシャツから伸びている腕に浮かび上がった血管を見て、少しドキッとした。

 無事に職員室に段ボール箱を運び終えると、榮槇先生はすぐにどこかへ行ってしまった。

 私はその背中を見つめる。