私と藍梨は、段ボール箱を二つずつ抱えて教室を出る。
 藍梨が言ったように、運べるには運べるが、思ったよりも重かった。

 悲劇は、階段を下りているときに起きた。

 段ボールのせいで下が見えなくなっていた私は、足を踏み外してしまったのである。

「きゃっ!」

 両手が塞がっていて、手すりにつかまることもできない。

 もちろん手を離してしまえばいいのだが、その思考までたどり着くよりも早く、手遅れなところまで私の体は倒れてしまっていた。

 トラックにひかれそうになったときのことを思い出す。

「琴葉っ!!」

 藍梨の叫び声。
 私は目を閉じる。

 その瞬間、グッと腰の辺りをつかまれて引っ張られた。

「っと。……大丈夫?」

 優しげな声に恐る恐る目を開けると、デジタル表示の腕時計が目に入った。私の腰に巻き付いていたのは、ほっそりした、だけど筋肉質な腕だった。

 なんとかまっすぐに立つ。

 持っていた段ボールは、落とすことなくしっかり両手で抱えていた。

 なんて献身的な女なのだろうか。
 いや、ただ単にどんくさいだけなんだけど……。

 振り返ると、白いワイシャツ姿の男性が、整った顔立ちに心配そうな表情を浮かべていた。

「怪我はない?」

「あっ、はい。ありがとうございます、榮槇(さかまき)先生」

 その答えを聞いて、榮槇華舞(はるま)教諭は、私の腰に回していた手を離す。