蒸し暑い体育館で終業式が行われた。
人口密度も高く、多くの生徒が手で顔を仰いでいたり、シャツをパタパタと動かしたりしていて、懸命に風を集めていた。生ぬるい風でもないよりはましだと言わんばかりの、非効率的な動作だ。
「――であるからして、えー、君たちは、あー……」
壇上でマイクに向かって喋るのは、髪の生え際を後退させた五十代の男。嶺明高校の校長である。内容のない話がもうかれこれ十五分くらい続いている。
「――とまあ、何が言いたいかといいますとですね、人生、何が起こるかわからないということです。君たちはまだ若いので、あまり実感はないと思いますが、人生は思い通りにいかないことの方がはるかに多いです。で、思い通りにいかなかったときに、どうするか。よく考えて、後悔のないように行動して、それでもときには諦めも必要です」
校長は一度言葉を切って、生徒たちを見渡す。大多数の生徒が早く終われと思っていることに、本人は全く気付いていないのだろう。とても満足げな表情だった。
「一番よくないのは、その場から動かないこと。立ち止まって待っているだけでは何も解決しません。望むものは、自分の手でつかみ取るのです。君たちにはそれを、この嶺明高校で学んでほしい。さて、せっかくの夏休みですので、少しくらい羽目を外すのも構いません。しかし、一度しかない人生です。大人になってしまうと、皆さんが思う以上に自由にできる時間は少ないです。自分が本当にやりたいことをやりましょう! 以上」
それを最初に言えよ! というのが、生徒たちの総意だったに違いない。なんだかいい話っぽくまとまった。