バーにはきっと、様々なお客さんが来る。
自称霊能力者の一人や二人、珍しくもなんともないのだろう。
今みたいな胡散臭い話も聞かされるかもしれない。その場合、物事の真偽などは二の次だ。相手の望む返答さえできていれば、それがそのまま正しい答えとなる。そんな感じのことが書かれている小説を読んだ覚えがあった。
「その黒猫なんだが、もし見つけたら連絡してほしい。被害者が出る前に捕まえたいんだ」
弓槻くんも少し驚いたようだったけど、そのまま会話を続けた。
「わかった。黒猫だね」
本気でそう言ってくれているのか、心の内では私たちのことをバカにしているのか、その笑顔からは読み取れない。が、休憩時間を割いてまで話を聞いてくれているところを見るに、私たちに対して悪い印象は抱いていないと思っておく。
美味しいコーヒーを飲み干して、私たちは店を出る。
仙田くんとマスターは笑顔で見送ってくれた。
冷房が効いていた店内から一転、ジメジメした空気が肌に絡みつく。
地獄のように暑い。
マスターが話してくれたタレーランさんの言葉が、私の脳裏をよぎる。
これからのことを話し合うため、私たちは一度学校に戻ることになった。
「仙田朔矢はどうだった?」
「うーん。わからない。今回も特に何も感じなかったけど」
彼の笑顔には思わずちょっとドキッとしてしまったけど、今まで男の人の爽やかな笑顔を生で見る機会なんて、私にはほとんどなかったからだろう。
「猫が苦手だと言っていたな」
「うん。でも、猫自体が苦手っていうより、潔癖症のせいで猫に近づけないって感じだったよね」
「そうだな。潔癖症が生まれ変わるときに引き継がれる事例は聞いたことがない。そもそも、シロちゃんが潔癖症だった証拠もない。なんとも言えないな」
そんなやり取りを交わしながら、嶺明高校までの道を歩いた。