「実はこのコーヒー、あいつが淹れたんだ」
彼は、カウンターの向こう側で作業をしている仙田くんに視線をやりながら言った。
「へぇ、仙田くんが。すごいですね」
先ほどの恥ずかしい台詞を、コーヒーを淹れた本人に聞かれなくてよかった。
「あいつは小さいときから、僕の姉、つまり朔矢の母親によくこの店に連れて来られてるからね。その影響かどうか知らないけど、バーテンダーになりたいなんて言い出して。仕事を手伝わせてくれって言われたときは驚いたね」
「そうなんですか」
「将来的には自分で店を開きたいなんて言って」
それで夜も店の手伝いをしているのか。高校生なのに、しっかりした将来のビジョンがあってすごい。
「仙田くんなら、きっとなれますよ」
これだけ美味しいコーヒーを淹れられるんだから。
あれ。でもコーヒーはバーテンダーには関係ないのかな。
「僕が言うのもなんだけど、カフェ店員としてはかなり優秀だと思うよ。バーテンダーとしてはまだ修行中だけどね。まあ、カクテルを作ったりアイスピックで氷を削ったり、ある程度はできるようになってきて、ちょっとはバーテンダーらしくなってきたかな」
そう話すマスターの表情には、優しげな微笑みが浮かんでいた。本当の子どものようにかわいがっているのだろう。