「コーヒー、冷めないうちに召し上がって」

「あ、はい。いただきます」

 私はテーブルの上に設置してあった砂糖とミルクを入れる。

「……いただきます」

 弓槻くんも同様に砂糖とミルクを入れたのだが、その量は私の三倍ほど。彼が極度の甘党だということが判明した。

 ステンレス製のマドラーでかき混ぜて、まずは一口飲む。

「美味しいです」

 お世辞などではなく、勝手に私の口から滑り出ていた感想だった。
 まろやかでコクがあり、自然と体に染み込むような深い味わい。

「甘くて美味しいです」

 弓槻くん、甘いのは当たり前だよ。あんなに砂糖とミルクを入れたんだから……。

「それはよかった。ところで君たちは、愛する人はいるかい?」

 突然の質問に、私はコーヒーを吹き出しそうになる。

「愛する人……ですか?」

 なんとか飲み込んで、聞き返した。

「ああ。家族や友達じゃなくて、恋人という意味で、だ」

「私は、いません」

 恥ずかしさをどうにか表に出さないよう答えて、弓槻くんの方を見る。

 そういえば、弓槻くんはそういう人、いないのかな。もしいたとしたら、その人は幸せなんだろうな、と考える。彼の優しさと頼もしさを知った今だからこそ、思うことだった。

「同じく、いません」

 弓槻くんはまるで、視力検査で方向を答えるみたいに、無機質な声で言った。