「これ、お代は要らないから」

 コーヒーを運んできたダンディなおじさまはダンディに微笑んで、二人分のコーヒーをテーブルの上に置く。

 砕けた口調と、無料でのコーヒーの提供に、私は戸惑う。

「いや、そんなわけには――」

「いいっていいって。君たち朔矢の友達でしょ?」

「えっと、友達というか……」

 前世で恋人だったかもしれない仲です、なんて、頭がおかしいことこの上ない台詞は飲み込んだ。

「まあ、なんでもいいや。あいつが学校の知り合いを連れてくるなんて珍しいからね」

 この人は、仙田くんとどういった関係なのだろう。

「あの、失礼ですが、あなたは……」

「僕はこの店のマスターで、朔矢の叔父だよ」

 やはりマスターなのか、という感想と同時に、仙田くんの親戚であることを知らされて驚く。

 弓槻くんの先ほどの大丈夫だという発言の意味も、このときわかった。夜は雇用者と労働者の関係でなく、親戚の手伝いとして働いているということだろう。

「叔父さん、だったんですね」

 いつもお世話になってます、なんて言えるほど仙田くんとは親しい間柄ではない。それどころか、さっき初めて会ったばかりだ。