「あの店員さんが仙田くん?」
「そうだ。彼はこのカフェでアルバイトをしている」
「へぇ、アルバイトか……。ここ、素敵なお店だよね」
思ったことを率直に口にする。
「この店は夜の九時からはバーになるらしい。棚に酒瓶が並んでいるだろう」
弓槻くんに言われて初めて気づく。
「あっ、本当だ。それでこんなに落ち着いた感じなんだ」
まだお酒を飲んだことがない高校生の私でも、この店の夜の様子をなんとなく想像できる。
「ちなみに仙田朔矢は夜もここで働いているそうだ」
「え、それって大丈夫なの?」
「別に大丈夫じゃないか? 留年はしていないみたいだし」
「いや、そういうことじゃなくて。確かにそれも心配だけど。そんな夜遅くまで高校生がアルバイトなんて、法律とか条例とかで――」
「ああ、そういうことか。それなら問題ない」
「え?」
弓槻くんの言っていることが理解できないうちに、深く澄んだ声が私たちの会話を中断する。
「お待たせ致しました」
仙田くんと同じ制服を着用した店員が、二組のカップとソーサーを載せたお盆を持って一礼した。
コーヒーの香りが鼻腔をくすぐる。
運んできたのは、あごにひげを生やした、いかにもマスターという感じの上品なおじさん、いや、おじさまだった。