「いらっしゃいま……ああ、弓槻くん」
若い店員が現れ、弓槻くんの名前を呼んだ。
上半身が白、下半身が黒の制服に身を包んで、爽やかな笑みを見せる男の人。お洒落なオーラが出ている。芸能界にいてもおかしくはない雰囲気で、チャラいとか軽そうだとか、そういった悪い印象はない。私たちと同じくらいの年齢に見えるけど、弓槻くんの知り合いだろうか。
「突然無理を言って悪かったな、仙田。今大丈夫か?」
弓槻くんのその台詞で、彼が仙田朔矢くんなのだと判明した。
「あと十分もしたら休憩の時間だから、それまで少し待っててもらえるかな」
仙田くんは、店内の壁にかかった時計をチラッと見て言う。時計の針は、午後二時二十分を指していた。
「ああ、そうさせてもらう」
「美味しいコーヒーでも飲んでてよ」
四人掛けのテーブルに案内され、私と弓槻くんは並んでそこに座った。
改めて店内を見回す。カウンター席とテーブル席が半分ずつくらいの割合。明るく洒落た風情の店内には、安らかなジャズ風のBGMが流れている。
お客さんは私たちの他に二組。カウンター席でパソコンを開いている大学生風の若者と、テーブル席で談笑するおっとりした雰囲気の老夫婦。
和やかで安心感のある空間となっていた。