第2話 登場人物
【名無し】の剣士
ディスコルディア
キリ
モル
ロロ
ラロ
ロナー
ガーネット
トルシュ村の村人たち
【黒竜帝国】の兵士たち
ナレーター
〇【異世界】の森 (昼)
シュヴァルツバルトみたいなうっそうとした森が広がっている。
そこを、キリが息を切らして必死に走っている。
背後から「待て!」って感じの声が追いかけてくる。
キリを追いかけているのは、中世の騎士が纏うような鎧を纏った兵士たち。
彼らは【黒竜帝国】の兵士である。
兵士たち「逃がすな! 皆殺しにしろとのお達しだ!」「亜人は見つけ次第、殺せ!」「逃がすな、亜人は殺せ!「殺せ! 殺せ! 殺せ!」「殺せ! 亜人は、殺せ!」
キリ
「ボゥラさん、ドゥーラさん、アジス爺ちゃん、メヒコおばちゃん、ミディーおじちゃん、モル、ロロ、ラロ、ロナー……ああ、どうして、どうして……どうして! あたしたち、一生懸命生きていただけなのに、どうして殺されなきゃいけないの!?」
ナレーター
「終わりはいつだって、理不尽に始まる」
(※キリの回想シーン)
〇【異世界】トルシュ村 酒場 (昼)
シュヴァルツバルトみたいなうっそうとした森の中に、小さな村がある。村の名は、トルシュ村。
小さいながらしっかりとした造りの木造の家屋が建ち並び、畑が、井戸がある。家畜が飼われていて、牛がのんびりと草を食み、鶏が走り回っている。
野外に、村人の姿はない。村に一つしかない酒場に、村人たちが全員集まっている。
村人たちは、オークやコボルトやダークエルフ等、この【異世界】では亜人と呼ばれ、忌み嫌われる者たち。
今日は、村の若い男女の結婚式。なので、みんな精一杯おしゃれをしている。
キリの姿、周囲から浮いている。キリだけ唯一、人間の姿に近い。ぱっと見て、キリは人間にしか見えず、村人たちの中で浮いた存在となっているが、誰も忌避していない。
キリ、友達(モル、ラロ、ロロ、ロナー)と一緒に、紙吹雪が入ったバスケットを手に持
っている。
「練習通り行くよ」と真剣な顔で言うラロ。
「……ごめん、おしっこしたい」と、ロロ。
(※異世界のトイレは、一部を除いて野外トイレという設定です。)
「早く行ってこい!」と言われ、ロロ、バスケットを置いて酒場から出て行く。
「それでは、新郎新婦の入場です!」という声と共に、酒場の奥の扉が開いて、婚礼の衣装に身を包んだ若い亜人の男女が出てくる。
婚礼の衣装、決して豪華なものではないが、質素で美しい。
「ボゥラさん、ドゥーラさん、ご結婚おめでとうございます!」と、村人たち全員。
キリとその友達、紙吹雪をまく。紙吹雪が、新郎新婦に降り注ぐ。
キリと子供たち全員
「ボゥラさん、ドゥーラさん、どうか末永くお幸せに!」
祝福を受け、幸せそうに微笑む新郎新婦。
酒場には、二人の結婚を心から祝う亜人たちの幸せと笑顔が満ち溢れている。
〇異世界 トルシュ村 外 (昼)
ロロ、「急がなくちゃ! 急がなくちゃ!」と言いながら、道を走っている。
そんなロロの後ろ姿を、森の中からいくつもの目が見ている。【黒竜帝国】の兵士たちだ。
兵士の一人、弓を構え、矢を番え、構える。走るロロに向けて、矢を放つ。
放たれた矢は、ロロの首に命中する。ロロ、倒れる。
死んだロロの周りに、隠れていた兵士たちが集まってくる。全員、剣や槍で武装している。
指揮官である女兵士ガーネットが登場する。
ガーネット
「これより、亜人どもを殲滅する!」
【黒竜帝国】の旗が翻る。
〇異世界 トルシュ村 酒場 (昼)
結婚式、盛り上がっている。
亜人の大人たち、新郎新婦に祝福の言葉をかけている。
キリたち、壁際にいる。「ロロの奴遅いな」と、ぶーたれている。
ロナーとキリ、モルとラロから少し離れた場所で新郎新婦を見ている。
二人を見るキリ、ちょっと涙ぐんでいる。
心配するロナーに、キリ「大丈夫」と涙を拭う。
キリ
「死んだお父さんとお母さんも、あんな風にみんなにお祝いしてもらったのかなって思ってさ」
ロナー
「キリ……」
キリ
「わたしも、大人になったら……村の誰かのお嫁さんになれるのかな? わたし、純粋な亜人じゃなくて、半分人間だけど」
そう言うキリに対し、ロナー、「そんなの……かまうかよ! キリはキリだ」と言う。
ロナー
「シヴァさん(※キリの父)と瞳美さん(※キリの母)の自慢の子供のキリだ。トルシュ村で一番かわいいキリだ。木苺のジャムを作るのが得意なキリだ。上着に刺繍をするのが下手くそなキリだ。おれのかあちゃんが作るシチューが大好きなくせに、にんじんが苦手でおれの皿にいつの間にか押し付けてくるキリだ。トルシュ村の一員のキリだ!」
ロナー、顔を赤くしてそっぽを向いてもじもじしている。照れているのを隠している。
ロナー、片手をズボンのポケットに突っ込んでいる。ポケットには、キリにプレゼントしようと思っていたペンダントが入っている。
ロナー
「だから、もしよかったら、俺と」
ロナーの台詞、酒場の窓が派手に破られる音で遮られる。
窓を破ったのは、先程射られたロロの死体。
村人、悲鳴を上げる。
直後、酒場の扉が蹴り破られ、武装した【黒竜帝国】の兵士たちがぞろぞろ踏み込んでくる。
兵士たち、「昼間からこんな所に集まってパーティーか、亜人ども!」と、手にした武器を村人たちに向ける。
(※キリの回想シーン 終了)
〇異世界の森 (昼)
冒頭に戻る。
シュヴァルツバルトみたいなうっそうとした森の中を、キリが息を切らし て逃げている。
兵士たち、馬に騎乗してキリを追いかけている。下卑た笑みを浮かべ、キリを殺すのではなく、生け捕りにしようとする。
兵士の一人がスリング(※遠心力の力で石を飛ばす事が出来る武器)を取り出す。石をセットして、馬に騎乗しながら頭上で振り回す。
逃げるキリに向けて、石が放たれる。石、キリの背中にぶち当たる。
キリ、悲鳴を上げて前のめりに倒れる。目の前には、鬱蒼と生い茂った茂み。
不意に、木立が途切れる。キリの足、地面を踏んでいない。
バシャーンッツ!! と派手な音。
キリ、湖に落ちる。
(※以降、キリの心の声を、キリ・Mと表記します)。
キリ・M
「く、苦しいっ! 息がっ! 助けてっ、誰か助けてっ! ……おとう、さん。……おかあ、さん……」
(※キリの回想シーン)
〇異世界 トルシュ村 酒場 (昼)
結婚式のために酒場に集っていた亜人たちを、【黒竜帝国】の兵士たちはなんの躊躇もなく殺していく。
大人も子供も男も女もかまうことなく殺す。
逃げ惑う亜人達、中には泣いて慈悲を、命乞いをする者もいるが、兵士たちは聞き留めない。最早、虐殺である。
ロナー
「キリ、逃げろ! お前だけは、逃げて!」
モルとラロ、既に殺されている。
ロナー、キリを庇って殺される。
その際、手にポケットに入れていたペンダントを握らせる。
ロナー
「キリ、逃げて、生きて、俺の分も、お願い、みんなの分も……」
(※キリの回想シーン 終了)
〇 異世界の森 湖の中
キリ・M
「鍛冶師のアジス爺ちゃんは腕のいい鍛冶師で、みんなの農具を作ったり直したりしてくれました。パン屋のメヒコおばちゃんは、毎日早く起きてみんなのパンを焼いてくれました。ドゥーラさんは隣の家の素敵なおねえちゃんで、わたしが小さい頃、遊んでくれたり抱っこしてくれました。ボゥラさんはそんなドゥーラさんを好きになって、お嫁さんになってほしいってみんなの前でプロポーズした素敵なおにいさんで……。牛飼いのミディーおじちゃんは牛のお産を見せてくれてくれました、みんなに命の尊さを教えてくれました。ロロ、モル、ラロ……それに、ロナー。ひどいよ……こんなきれいな石でできたペンダントなんか、いらないのに。……みんなと一緒なら、わたしはそれだけで……よかったのに」
湖の底に沈んでいくキリ。
キリ・M
「そんなすてきなみんなが、なんで……亜人ってだけで、昔、魔王の軍勢に加担したってだけで、転生者の勇者が勝っただけで、こんな残酷に殺されなきゃいけないの? わたしたちは、誰にも迷惑をかけず、静かに暮らしていたよ。なのに、ひどいよ……!」
キリが持つペンダントが、眩い光を放つ。
キリは目を閉じていて、それに気付いていない。
キリ・M
「助けて……誰か、怖いよ! ……死にたくない」
ペンダントが放つ光に向かい、近づくシルエット。
それは手を伸ばし、キリを掴む。
キリの二の腕を、力強く掴む、男の手。
そのままキリを抱きとめ、水面に向かっていく。
〇 異世界の森 湖 (夜)
日は沈んでおり、複数の兵士たちが、松明をもって湖周辺をうろうろしてキリを捜している。
スリングを投げた兵士に、「獲物を水ん中に落としちまいやがって」的な罵声が浴びせられている。
風が吹いてもいないのに、湖にさざ波が起こっているのに気付いていない。
次の瞬間、湖から大きな水柱がド派手に上がる。
それと共に、湖から意識を失ったキリを抱えた【名無し】の剣士が、飛び出し兵士たちの前に降り立つ。
兵士達、「なんだ、こいつ?」と叫び、帯びていた剣を抜き放つ。
兵士たちにとって、【名無し】の恰好は変てこりんもいいところだろう。
(※【名無し】の剣士の衣装、江戸時代の浪人みたいな感じの和装をイメージしています)
【名無し】の剣士、キリを腕に抱いたまま、兵士たちを見る。
キリ、ぼんやりとした目で、【名無し】の剣士見る。
【名無し】の剣士の周辺に、ツバメ(※の幻影)が飛び交っているのが見える。
キリ
「……ツバメ、死んでいる?」
呟いた瞬間、意識を失う。
ナレーター
「始まりも、また然り」
〈ルーザー=デッド・スワロゥ 第2話 了〉