「あら、今から行くの、綺」



玄関でスニーカーを履いていると、母にそう声をかけられた。耳だけを傾け、「うん」と短く返事をする。



日曜日の19時。夕飯を食べ、全ての食器を片付け終えた後のことだった。

「門限までには帰るのよ」と相変わらず世話焼きな母が付け足す。高校3年生、18歳の息子にかける言葉にしては、少しうざったい言葉のような気もする。

しかしながら、そんな母に慣れてしまった自分もいて、目は合わさずもう一度「うん」と返した。



一般的な家庭の普通は分からないが、俺の家はとても標準的だった。


少々世話焼きな母と温厚な父、それから2つ下の大人しい妹。

標準的だからこそ、俺が深夜に外に出ていることに気づいた時、母はとても心配した。父は綺麗な星空が見たかった、といい本音と嘘の混ざった俺の言い訳を否定することも肯定することもせず、「門限は21時半だぞ」と言った。妹は、「誕生日プレゼント」と言って家庭用プラネタリウムをくれた。