外を見れば、既に雨は止んでいて、茜色に変わり始めた日差しがガラス戸から差し込んでいた。
随分と長居してしまったようだ。
「あ、そろそろ帰らないと。マスター、お会計を……」
席を立つと、相変わらず柔らかな笑みを浮かべていたマスターが口を開いた。
「いいえ、もう頂いていますよ。大丈夫。雨は上がってますから」
「え、ああ、あの、また来ます。とてもいい店だった」
「ふふ、また見つけたらお越しくださいな」
謎めいた彼の言葉を怪訝に思いながら、私はがらりと戸を開けた。
「えっ」
途端に、喧騒が私を包み込んでいた。
灰色のビル群が天高く聳え立ち、無関心な他人の群れが、私の横を通り過ぎ去ってゆく。
茫然と突っ立っていると、胸ポケットの中に何か入っているのに気づいた。
それは、丁寧に折られた狐の折り紙。何かが書かれているようで、開いてみれば、達筆な筆文字で
【またのご来店をお待ちしております。 まほろば茶房】
と書かれていた。
まさに、狐につままれたような、それでいて雨上がりの夏空のようになんとも晴れ晴れとした、奇妙な心持ちだった。
私は思わず笑いを漏らすと、喧騒の中を歩き出した。
随分と長居してしまったようだ。
「あ、そろそろ帰らないと。マスター、お会計を……」
席を立つと、相変わらず柔らかな笑みを浮かべていたマスターが口を開いた。
「いいえ、もう頂いていますよ。大丈夫。雨は上がってますから」
「え、ああ、あの、また来ます。とてもいい店だった」
「ふふ、また見つけたらお越しくださいな」
謎めいた彼の言葉を怪訝に思いながら、私はがらりと戸を開けた。
「えっ」
途端に、喧騒が私を包み込んでいた。
灰色のビル群が天高く聳え立ち、無関心な他人の群れが、私の横を通り過ぎ去ってゆく。
茫然と突っ立っていると、胸ポケットの中に何か入っているのに気づいた。
それは、丁寧に折られた狐の折り紙。何かが書かれているようで、開いてみれば、達筆な筆文字で
【またのご来店をお待ちしております。 まほろば茶房】
と書かれていた。
まさに、狐につままれたような、それでいて雨上がりの夏空のようになんとも晴れ晴れとした、奇妙な心持ちだった。
私は思わず笑いを漏らすと、喧騒の中を歩き出した。