猪を調理スキルで解体しながら、どう調理するかを考える。
「猪か……使い道はいろいろあるが……」
ちらりと目を輝かせるアレクを見る。
「こういうときは、手の込んだ料理よりも、アレだな」
焚火を起こし、薬草を詰め、豪快に丸焼きにするベート。
いい匂いに、アレクとエレナは期待感を隠せずそわそわしている。

「美味しい!!!!」
猪の丸焼きを大喜びで食べる二人。
「自分が狩ったから格別だろう」
「いえ、ベートさんの腕がいいんですよ! 姉ちゃんが作ったときなんて――あいたっ!」
余計なことを言いかけ、アレクはエレナに叩かれる。

ベートは二人のやり取りを笑いながら眺める。
ここ数日この姉弟と接し、料理も何度か披露したが、そのたびに二人とも喜んで食べてくれる。
前のパーティでは、料理人というだけで馬鹿にされ、食事を喜ばれることはなかった。
ライオネルは偏食でよく残し、リーシュは甘いものばかり食べて他の料理はほとんど手を付けず、アイリスは自分の料理こそ食べるが、残された料理になにも思わない。
(たしかに俺は特性付与料理人だが……)
サポーターであるよりも前に、自分は料理人であるのだと、二人の姿に思い出す。
ベートにとっては、美味しく食べてもらえることが、なによりも一番うれしいのだ。

だが、穏やかな時間を踏みにじるように、ライオネルたちの元パーティが現われる。
彼らはベート追放時に立てていた作戦通り、無謀なクエストに挑むところだった。
たまたま出くわした彼らは、ベートが初心者パーティにいることに気付いて鼻で笑う。
「遠足か? おっさんにはこの程度のパーティがお似合いだな」
そのままアレクとエレナを獣人であることを理由に馬鹿にするライオネル。
ベートは売られた喧嘩を買おうとするが、ライオネルは取り合わなかった。
「俺たちは忙しいんだよ。俺の勇者の力を見込んで、町の連中が頼み込んできたんだ。洞窟の魔物を討伐してくれって」
ライオネルは余裕な態度だが、ベートは無茶であると気づいていた。
洞窟の魔物は数が多く、そのうえ炎を吐く竜種までいて、ライオネルたちだけでは難しい。
それどころか、下手に魔物を突けば凶暴化して、近くの町に危険が及ぶかもしれない。
どうにか制止しようとするが、ライオネルたちは「嫉妬だ」と聞き入れずに去って行ってしまう。

その後、午後になり、日が暮れる前に町へ戻ろうと森を出たところで、ベートは慌てて逃げるライオネルたちとすれ違う。
その様子から、ベートは彼らが討伐に失敗したことを悟る。
「まずいぞアレク! いそいで町へ戻れ!」
魔物の討伐に失敗し、おそらくライオネルたちは魔物に匂いを知られている。
このままだとライオネルを追って、町に魔物が襲来する。