とある町の宿屋。勇者ライオネル、魔法使いリーシュ、聖女アイリスのパーティが戦闘計画を練っている。
それは町の洞窟の魔物を討伐するというもの。ライオネルたちは簡単な討伐だと余裕ぶっているが、実際にはかなり難しい計画である。
主人公であるベートはそのことを理解しており、料理人として彼らに食事を提供しながら考え直すようにと諭す。
水を差されたライオネルたちは、ベートの料理をひっくり返し、「料理人風情が俺たちに口を出していいと思っているのか?」と言ってパーティから追放する。


過去回想。
もともとベートは王宮騎士団で料理を提供していた『特性付与料理人』。
『特性付与料理人』とは、食べることで戦闘に有利な『特性』を得られる特殊な料理を作る者のことを指す。
ライオネルのパーティに入ったのは、勇者を名乗る彼らを支援せよという王の命令のため。
ライオネルたちはベートの料理によるサポートで今まで旅を続けられたが、そのことに自覚がなく、ベートを馬鹿にし続けていた。
それでも王命と我慢しライオネルのサポートを続けてきたが、これまでベートはライオネルたちに勇者の力を見いだせずにいた。

回想が終了し、現在。
ベートは調理器具とわずかな保存食以外の身ぐるみをはがされ、宿を追い出されていた。
町を歩きつつ、これからどうするべきかと悩む彼の前に、突然「すみません~~~!!」の叫び声とともに犬獣人の少年がぶつかってきて、そのまま倒れ込む。
倒れたままの少年にベートが「どうした?」と尋ねると、彼は腹の音を鳴らす。空腹らしい。
ベートは少し迷ってから、『特性』が付与された保存食を与える(迷った理由は、この付与された『特性』がかなり特殊であり、いざというときの切り札になるからである)。

犬獣人の少年は『アレク』と名乗り、保存食の美味しさに感動する。
ベートは食べる彼を観察し、彼の全身に真新しい殴打の痕跡があることに気付く。
どうしたのかと尋ねた瞬間、二人の前に巨漢の男二人組が現われる。
彼らは自分たちが奴隷商であり、アレクが商売道具を逃がしたことを告げる。
それに対し、アレクは二人が子供を無理やり誘拐しようとしたから止めたのだと主張。男たちはその主張を肯定し、アレクを「犬コロ」と馬鹿にして殴りかかってくる。
ベートをかばい、逃げるように告げるアレク。勇ましさに感心するベートの目の前で、アレクはあっさりと殴り飛ばされ、地面に倒れる。
「弱っ!?」
驚くベートたちを、人々が遠巻きに眺めている。
奴隷商たちはこのあたりでも有名なならず者で、強くて手が出せないため警備兵たちも手を焼いているという。
アレクを踏みつけ、とばっちりでベートにも手を出そうとする奴隷商たち。
その瞬間、アレクは料理の消化が完了し、『特性』を付与される。
今までの弱さが嘘のように、アレクは男たちを圧倒し、二人を倒してしまう。
アレク自身も驚き、周囲の人々が歓声を上げる中、ベートは目を見張っていた。
ベートを守ろうとしたアレクの一撃に、勇者の力である『女神の加護』の片鱗が見えた。

彼に与えた保存食の『特性』は、『レベルブースト』。
現在のレベルを引き上げる効果がある。
今は弱くとも、アレクは素質の塊であった。