「待ってるから」
「うん。いい子にしてて」


いい子にしてる。もうずっと長い間、忠直に貴方を想っている。
そんな私が報われない理由を、私がいい子に成りきれない理由を、貴方の左薬指で鈍く光るシルバーリングが説明してくれていた。


彼はいつも、私が執拗にそれを外すこと強請れば、呆れ笑いを浮かべながらも身から離してくれる。そういう慈悲垂れた優しさに、私はまた恋心を上塗りさせている。

けれど彼の左薬指に巻き付いて離れない薄赤い指輪痕が、私たち二人を縛るのだ。

その印は二人きりの小さな部屋の中でさえも、決して自由を与えてくれることは無かった。


私たちは例えどんな行為を行っていても、いつも頭の片隅に一人の女性の姿が浮かんでいる。


私の中にならばどれだけ居座ってくれても良かった。
代わりに、せめてこの人が私の体温に触れている数十分間のあいだだけは、その脳裏から離れて行って欲しかった。

独占欲も嫉妬心も執着心も、自分の中では羨望の同義だ。


シルバーリングに重ねた女性に、私を見つめている時間でさえも囚われている貴方。
そこに愛情が含まれていることが、貴方があまり心地悪そうにしていないことが、悔しくて。


「ねえ、約束してよ。小指、だして」
「やけに子供みたいなことするな?」
「七つ下の子供なんでしょ?」