全部、想像することさえもしたくないのに。貴方が飲みかけの紅茶を、煙草の吸殻を、ベットのシワを、残して私の部屋を出ていくから。
貴方の香りが消えてしまうのが惜しくて、哀しくて。
頬に涙が伝うのを堪えながら、貴方からのメッセージの着信を知らせる通知を待っている。
「大丈夫。仕方がないの、今日は遅かったから」
「今度はもう少し早く来るから、ゆっくりしようね」
今度って?
明確な発言をしてくれないと、迎えることの無い次回を仮想してしまって心苦しくなる。
ゆっくりしようね、だなんて。
貴方と二人で時間を重ねていると、時計の針の進みが速く感じるばかりなのに。
「いつ、会えるの?」
「連絡するから」
いつ、連絡してくれるの?
しがみつくような私の瞳に笑って「可愛いな」って、そうやって貴方は揶揄ように笑うけれど。
私はそれが、この時間を終わらせるために活用されるキリのいい道具にすぎない愛情表現だということに気がついている。
「また来るから」
「……鍵、持って行く?」
「いいよ。開けてくれるだろ?」
彼は私と過ごした時間を持ち帰りたがらない。私が付けたシャツのシワさえも、何度も伸ばして丁寧に隠滅を図る。
私の部屋の匂いだって、私の肌の匂いだって、きっと彼の車に置いてある奥さんの好みに合わせた芳香剤に上書きされているのであろう。