「指輪、外してほしい」


太い首に回していた腕を解いて言った私のその言葉に、貴方の瞳の奥がほんの一瞬だけ揺らいだ。

多分、二秒にも保たない視線だった。


「こんなのが気になるなんて、若いな」


肩を引き寄せたあとの雑な口付けで不満にしている私のそれ以上の言葉を奪って、今度は優しく頭を撫でる。


牽制された私の唇はツンと尖ったままなのに、彼が撫でる手の運びを止めることは無かった。

ただ誤魔化しているつもりなら、それはもう随分も前に通用しなくなっているのに。


一回り以上に大きな手が好きだ。整えられた爪が髪の毛を掻かない、その清潔さが好きだ。

触れることを辞めるタイミングで角張った人差し指が二回、私の頭を軽く小突く。そんな癖づいた動作が好きだ。


たった一つの貴方の行動で、私の心はこんなにも擽られるのに。


離れていく左薬指に存在するシルバーリングが、灯りを反射して鈍く光るから。

どうしようもなく切なくなってしまって、私はまたその左手に縋る。
こんな心境を味わうのは、多分数十回目を超えていた。


「もう一度、撫でて」
「それだけでいいの?」


貴方が、誰かと先の未来を約束した左手で私に触れてくれるだけで、充分に満たされることが出来ているから。

この先も、それだけでいい。なんて拙さの残る言葉を口にすれば、きっと貴方はもう二、三度私の髪の毛に触れたあとにこの部屋を出て行ってしまったきり、そのまま来週も再来週も、私のベットに身を沈めることをしないでしょう?私と会う機会を億劫に思うでしょう?