王都から徒歩で一カ月ちょい掛け、ようやく目的地にたどり着いた。
エセラノ草原。
フォーセリトン王国領ではあるけれど、草原の南には東西に延びる巨大な山脈がある。
だからなのか、この草原で暮らす人はいない。
何故なら、草原の北側は魔王領だからだ。
山脈で王国とは分断され、魔王領は目と鼻の先。
誰が好き好んでこんな場所に住もうというのか。
俺だよ!
俺にとって最高の立地条件じゃないか。
今の俺は、魔王すら弱体化させてしまうような、余にも恐ろしいデバッファーだ。
しかも元々がバッファーだっただけに、とにかく人を支援したがる。
うっかりバフって超絶弱体化させてしまったら、握手するだけで掌を骨折させてしまう。
人さえいなければ、バフらずに済む。
この広大な土地で、人間は俺ひとり。
なぁに、話し相手ならいるから寂しくもないさ。
「クイ、出ておいで」
足元に向かってそう声を掛けると、俺の影の中からにゅるっと彼《・》が出て来た。
鼻から尻尾の先までせいぜい120センチほどの、動物に例えるならコアリクイに似たモンスターだ。
「ラル兄ぃ、やっと着いたんけ?」
「あぁ、着いたよ」
獣使いのテイムスキルの練習中に、唯一テイムできたのがこのクイだ。
見た目も可愛いし、リリアンやマリアンナにはよく可愛がられていた。
小さいなりだけど、そこはモンスターだ。
長い舌には毒があるし、爪で引っ掻かれれば痛いじゃ済まない。
こんなんでも下級モンスターだからなぁ。
「ラル兄ぃ……」
「ん? なんだいクイ」
クイは小さな体を持ち上げ、器用に後ろ足だけで立ち上がる。
コアリクイの威嚇のポーズに似ているけど、特に威嚇しないときでもクイはこうして立ち上がって歩くことも。それがまた、女性には大人気だったけども。
「ラル兄ぃ、ここなんもない」
「草原とか森とか、いろいろあるだろ? ほら、あっちには川もあるし」
「そうやなくて、町とか、村とか、畑とか」
そんなものある訳ないだろう。この辺りには人は誰も住んでいないのだから。
「人間、家に住んでいるって聞いた。ラル兄ぃたちは旅していたから、テント暮らしやったけど」
「うん、ここでも暫くはテント暮らしだな」
「暫く? 暫くの後は?」
俺は背負っていた鞄を卸し、その口を開く。
そこから取り出したのは一枚の板材。
「ここに家を建てるんだよ!」
その為の木材も鞄の中にバッチリ入っているし、素人でも建てられる家の図面を王都の大工に書いて貰ってある!
「明るいうちに近くを見て回ろう。どこに家を建てるのかも考えなきゃな」
「オレ、探す!」
そう言ってクイは立ち上がり、ぽてぽてと歩き出した。
そのスピードは立ち歩きを覚えた乳幼児並だ。正直、遅い。遅すぎる。
「クイ、俺の肩に乗って探してくれないか? そしたらもっと遠くが見えるようになって、良い場所も見つかるかもしれない。お前が頼みだぞ」
「おっ。任せろぉー!」
さぁ抱っこしろと言わんばかりに、クイはバンザイポーズでぽてぽてとこちらにやって来る。
抱きかかえて肩に乗せれば、俺の頭を器用に掴んで立ち上がった。
「それじゃあ探しに行きますかね」
「おぉー!」
出来れば川からあまり離れたくはない。水の確保がしやすいから。
だからと言って近すぎてもダメだ。
水飲み場には獣やモンスターもやってくるからね。
「森はー?」
草原の北には大きな森が広がっている。その奥にはまた山脈があるが、南のそれに比べれば大きくはない。
俺たちはこの草原に一度来たことがある。勇者アレスとその仲間たちと共にだ。
まぁその時は森を避けて草原を突っ切り、川を渡って荒野を進んだのだけれど。
そうやって俺たちは魔王領に入ったんだ。それも一年半前の話だけどね。
「あの森は深淵の森と言ってね。モンスターがいっぱい生息しているんだ」
「オレやっつけるぞー!」
お前よりめちゃんこ強いモンスターばっかりなんだけどなぁ。
ま、強いモンスターっていうのは、それに比例してなのか太陽を嫌う。
だから森から出てくることはそう滅多にあるもんじゃない。
とはいえ、あまり近づきたくもないのも事実なわけで。
「川から離れすぎず近すぎず、それでいて森からも離れている場所がいい」
「注文難しいなりなぁ」
「まぁよろしく頼むよ」
クイを肩車して歩くこと小一時間。
「ラル兄ぃ。あっこどう?」
「ん? あっこって……あぁ、あの大岩と何本か木が生えているところか?」
「そうそう」
確かにだだっ広い草原で、ぽつーんっと一軒家よりはマシかもしれない。
現場まで到着し、クイはさっそく木の上へ。
俺は岩の上によじ登り、高い場所から辺りを見渡した。
浮遊魔法を使いたいところだけど、『浮く』の反転が『沈む』だと恐ろしい目に会いそうだ。
なんで『沈む』魔法はなかったのかなぁ。
「うん、良さそうだな。川までは歩いて十五分ぐらいだろうし、森までは一時間といったところか」
「オレ偉い?」
「あぁ、偉い偉い。じゃあさっそく──」
「家作る!?」
テントを張ろう!
エセラノ草原。
フォーセリトン王国領ではあるけれど、草原の南には東西に延びる巨大な山脈がある。
だからなのか、この草原で暮らす人はいない。
何故なら、草原の北側は魔王領だからだ。
山脈で王国とは分断され、魔王領は目と鼻の先。
誰が好き好んでこんな場所に住もうというのか。
俺だよ!
俺にとって最高の立地条件じゃないか。
今の俺は、魔王すら弱体化させてしまうような、余にも恐ろしいデバッファーだ。
しかも元々がバッファーだっただけに、とにかく人を支援したがる。
うっかりバフって超絶弱体化させてしまったら、握手するだけで掌を骨折させてしまう。
人さえいなければ、バフらずに済む。
この広大な土地で、人間は俺ひとり。
なぁに、話し相手ならいるから寂しくもないさ。
「クイ、出ておいで」
足元に向かってそう声を掛けると、俺の影の中からにゅるっと彼《・》が出て来た。
鼻から尻尾の先までせいぜい120センチほどの、動物に例えるならコアリクイに似たモンスターだ。
「ラル兄ぃ、やっと着いたんけ?」
「あぁ、着いたよ」
獣使いのテイムスキルの練習中に、唯一テイムできたのがこのクイだ。
見た目も可愛いし、リリアンやマリアンナにはよく可愛がられていた。
小さいなりだけど、そこはモンスターだ。
長い舌には毒があるし、爪で引っ掻かれれば痛いじゃ済まない。
こんなんでも下級モンスターだからなぁ。
「ラル兄ぃ……」
「ん? なんだいクイ」
クイは小さな体を持ち上げ、器用に後ろ足だけで立ち上がる。
コアリクイの威嚇のポーズに似ているけど、特に威嚇しないときでもクイはこうして立ち上がって歩くことも。それがまた、女性には大人気だったけども。
「ラル兄ぃ、ここなんもない」
「草原とか森とか、いろいろあるだろ? ほら、あっちには川もあるし」
「そうやなくて、町とか、村とか、畑とか」
そんなものある訳ないだろう。この辺りには人は誰も住んでいないのだから。
「人間、家に住んでいるって聞いた。ラル兄ぃたちは旅していたから、テント暮らしやったけど」
「うん、ここでも暫くはテント暮らしだな」
「暫く? 暫くの後は?」
俺は背負っていた鞄を卸し、その口を開く。
そこから取り出したのは一枚の板材。
「ここに家を建てるんだよ!」
その為の木材も鞄の中にバッチリ入っているし、素人でも建てられる家の図面を王都の大工に書いて貰ってある!
「明るいうちに近くを見て回ろう。どこに家を建てるのかも考えなきゃな」
「オレ、探す!」
そう言ってクイは立ち上がり、ぽてぽてと歩き出した。
そのスピードは立ち歩きを覚えた乳幼児並だ。正直、遅い。遅すぎる。
「クイ、俺の肩に乗って探してくれないか? そしたらもっと遠くが見えるようになって、良い場所も見つかるかもしれない。お前が頼みだぞ」
「おっ。任せろぉー!」
さぁ抱っこしろと言わんばかりに、クイはバンザイポーズでぽてぽてとこちらにやって来る。
抱きかかえて肩に乗せれば、俺の頭を器用に掴んで立ち上がった。
「それじゃあ探しに行きますかね」
「おぉー!」
出来れば川からあまり離れたくはない。水の確保がしやすいから。
だからと言って近すぎてもダメだ。
水飲み場には獣やモンスターもやってくるからね。
「森はー?」
草原の北には大きな森が広がっている。その奥にはまた山脈があるが、南のそれに比べれば大きくはない。
俺たちはこの草原に一度来たことがある。勇者アレスとその仲間たちと共にだ。
まぁその時は森を避けて草原を突っ切り、川を渡って荒野を進んだのだけれど。
そうやって俺たちは魔王領に入ったんだ。それも一年半前の話だけどね。
「あの森は深淵の森と言ってね。モンスターがいっぱい生息しているんだ」
「オレやっつけるぞー!」
お前よりめちゃんこ強いモンスターばっかりなんだけどなぁ。
ま、強いモンスターっていうのは、それに比例してなのか太陽を嫌う。
だから森から出てくることはそう滅多にあるもんじゃない。
とはいえ、あまり近づきたくもないのも事実なわけで。
「川から離れすぎず近すぎず、それでいて森からも離れている場所がいい」
「注文難しいなりなぁ」
「まぁよろしく頼むよ」
クイを肩車して歩くこと小一時間。
「ラル兄ぃ。あっこどう?」
「ん? あっこって……あぁ、あの大岩と何本か木が生えているところか?」
「そうそう」
確かにだだっ広い草原で、ぽつーんっと一軒家よりはマシかもしれない。
現場まで到着し、クイはさっそく木の上へ。
俺は岩の上によじ登り、高い場所から辺りを見渡した。
浮遊魔法を使いたいところだけど、『浮く』の反転が『沈む』だと恐ろしい目に会いそうだ。
なんで『沈む』魔法はなかったのかなぁ。
「うん、良さそうだな。川までは歩いて十五分ぐらいだろうし、森までは一時間といったところか」
「オレ偉い?」
「あぁ、偉い偉い。じゃあさっそく──」
「家作る!?」
テントを張ろう!