18歳の誕生日。両親と祝う少し豪華な晩飯と成人おめでとうの言葉。18にもなってなんだか気恥ずかしい。でも、ありがとう。蝋燭を吹き消して小さなケーキを切り分ける。酒が好きなパパの好みががっつり反映された、4号サイズのラム酒たっぷりの洋梨とレーズンのタルト。
お祝いが終わると父さんは急に真面目な顔になった。
「夏彦と2人だけで話がしたいんだ。パパは少し席を外して欲しい」
「わかった」
不審げな顔をしてリビングを出るパパの姿を確認してから父さんは切り出す。
「夏彦、お前に隠していたことがある」
少し俯き加減で眉根に皺を寄せた父さんの真剣な様子にごくりと喉が鳴る。
「成人したからそろそろ話してもいいかと思って」
「うん」
「その、実はお前は俺とパパの本当の子供じゃないんだ」
「うん、それで?」
「知ってたのか⁉」
「知ってたというか常識的に」
驚いたように固まる父さん。そういえばこの人真面目だけどド天然なんだ。
呼称からもわかる通り俺の両親は2人とも男だ。高校で化学教えてる父さんと生物学者のパパ。男同士で生物学的に子供ができないことはよく知ってるだろ。
今世紀初頭に同性婚が認められて戸籍上も俺は2人の実子になっているが、もともとは誰かの子か両親どちらかの子を養子にしたはずだ。色々な配慮で同性婚の場合は実親が表示されない。
「あ、俺の生物学的な親の話? わかるの?」
「いや、わからない」
孤児院や紹介者経由で養子となった場合は両親にも知らされないことが多い。完全に前親との関係性を断つ方がいいケースもあるから。だから別に知らなくてもおかしくはない。
でも父さんの答えは斜め上だった。
「お前はパパが入院してた時に俺が病院でさらってきた子だ」
「ハァ⁉」
「廊下で泣いていたお前を」
攫ってきた、だと? いや、おかしいだろ。それに雑すぎるだろ⁉ 何故バレてないんだ⁉ 意味がわからん。
「それでだな、その時は父さんもテンパってたんだ」
「テンパるにも程があるだろ⁉」
「パパがラリってる時でさ、なんで子供を産んでくれないんだって散々騒いでて。養子も考えたけど、俺は俺かパパの子供以外愛せると思えなかったんだよ」
「あぁ」
パパはメンタルは乙女だからたまに不安定になってよくわからない所業にでることがある。普段は雄々しいのに。
「ひょっとして父さんは俺のことが好きじゃないとか?」
「いや、断じてそんなことはない。実際お前を育ててたら可愛くて可愛くて仕方なかった」
「なら、よかった」
「でも夏彦を産んだ親は別にいる。何故俺が逮捕されてないのかわからないんだが、お前が可愛いぶん余計にずっと申し訳なく思っていた。だからDNAを調べて欲しい。お前を今も探しているなら登録があると思って」
そうだ。父さんは真面目な人だった。今は行方不明や捜索名簿にDNA情報を添付するのが一般的だ。だから俺が探されてるならきっと登録されているだろう。父さんはずっと悩んでたんだろうな、そんな感じ。でも。
「俺の両親は父さんとパパだよ」
「わかってる。ありがとう」
「それに誘拐がバレて父さんが捕まる方が嫌だ」
「だがしかし俺はお前の本当の親の幸せを奪ってしまった」
「パパはどう思ってるのさ。俺よりパパだろ」
「パパは……よくわからない。混乱中にお前の実子登録をしたから普通に実子だと思ってる……と思う。言い出せない」
まぁ、実子と思っていたら誘拐してきた子と知ったらパパ荒れそう。
「じゃあさ、調べるだけ。父さんが捕まってないなら探されてないのかも」
「わかった。ありがとう」
父さんはため息を付いて用意していた検査キットを俺に渡す。髪の毛一本いれるだけですぐに結果が出る。そのデータを名簿検索。DNA情報は個人情報の極みだから入力だけなら相手に送信されることはない。親で検索をかけると1人、俺のDNA情報を探している人が見つかった。正確に言うと、遺伝子情報的に俺の親である可能性が極めて高い人、が俺を探しているという情報だ。
「どうしよう1人いる」
「夏彦、父さんは罪の意識で倒れそうだ。連絡してほしい」
「俺の両親は父さんとパパだけだってば。戸籍上もそうだろ」
「だが」
父さんは勝手にモニタの連絡ボタンをタッチした。何てことを! これでこの人に連絡がいってしまったじゃないか! 父さんが捕まったらどうしたらいいんだ⁉ メンタル壊れたパパの面倒なんて俺には見れないぞ⁉
そう思うとドカッと扉が蹴り開けられてパパが部屋に押し入ってきた。
「父さん! 気づいたのか⁉」
「まてパパ、何のことだ」
「夏彦のDNA調べただろ⁉」
「何故それを⁉」
「連絡が来た。夏彦は俺の子なんだ」
訪れる沈黙。何が何だかわからない。
「パパの……? まさか浮気……?」
クラクラとソファに崩れ落ちる父さんをパパがグーで殴り飛ばす。
「馬鹿野郎! 俺が浮気するわけないだろ! 俺には父さんだけだ!」
「パパ落ち着いて父さんが死ぬ」
「夏彦は俺と父さんのDNAを合成して作ったんだ」
「「えっ?」」
「父さんが自分の子供じゃないと嫌っていうからこっそり作って廊下において……。でも普通に可愛がってたから言い出せなくて……」
だんだん小さくなるパパの語尾。
いやそんなことよりクローンとかDNA合成は違法だろ。バレたらパパ捕まるよね。……だから父さんが調べるのを警戒して1番に連絡が来るよう登録してたのか。まあ、最初に探すのは捜索者リストだろうし。
「パパ、すまなかった。2人共愛してる!」
「俺もだ!」
俺の目の前で父さんとパパが熱く抱き合うのに巻き込まれる。
まぁ、丸く収まったならいいか。俺が実は両親の実の子供という予想外且つ謎の事実が判明したわけだけど。
マジびっくりだよ。