「取ったりしてない」

 それから一度考えて続ける。

「でもわたし……ちょっと思った」

 幸野がわたしを見ているのがわかる。

「あかりの好きだった先輩に告白されて……うれしいって思った」

 手すりをぎゅっとつかむ。
 一年前のことを思い出し、心臓の動きが激しくなる。

「わたし、あかりがサッカー部の先輩を好きだって知ってた。わたしはあかりのこと、ほんとうに応援してた。でもある日、先輩にわたしだけ呼びだされて……先輩が好きなのはあかりじゃなくて、わたしだって言われた」

 声が震える。だけどもう、わたしの言葉は止まらなかった。

「もちろんその告白は断ったんだけど……でもわたしは気分がよかったの。先輩があかりじゃなくて、わたしを選んでくれたこと。いつもあかりの後ろをついていくことしかできなかったわたしを、見てくれていたひともいたんだって……うれしかったの」

 きっとそんなわたしの汚い心を、あかりは察したんだ。

「先輩から告白されたことを、友だちが見てて、それをあかりが知った。わたしはちゃんと断ったって言ったんだけど、あかりはわたしのことを恨んで……無視するようになった」
「なんだよ、それ」

 幸野が口をはさむ。

「完全な逆恨みじゃん。そんなくだらないことで、いじめの標的にされるわけ?」
「でもわたしにも悪いところがあったから……」

 小学生のころから、わたしの憧れだったあかり。
 地味で目立たない、あかりより劣っているわたしと、仲良くしてくれたあかり。
 高校もあかりと一緒になれて、同じ部活に誘ってくれて。

 でも先輩に告白されたとき、あかりより優位に立てたことに、わたしは喜んだ。
 仲がいいふりをして、わたしはそれを、ずっと望んでいたのかもしれない。