二ヶ月前、僕は慶雲(けいうん)高等学校芸術科美術コースから、合格通知を受け取った。
 美術部の顧問の先生に何度もアドバイスをもらいながら仕上げた作品が評価され、推薦入試で通ることができたのだ。
 
 志望校のことを両親と正式に合意したのは三年生の夏頃。
 わざわざ関西の学校に進学するためには、当然それ相応の説明を求められた。
 「関東にだっていくらでも芸術を学べる高校はあるだろう」と疑問を呈する両親に、「慶雲高校のカリキュラムが自分に合っているから」と何度も説明して、納得してもらった。

 カリキュラムが僕に合っていること。それ自体は、事実だ。

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 式が終わったあとも、ほとんどの卒業生はなかなか校舎を出ようとせず、廊下にたまって思い出を語ったり、アルバムにメッセージを書き合ったりして過ごしていた。

 僕も余韻に浸りたいところであるけれども、帰って荷造りを進めないといけない。
 水島くんをはじめとした多くはない友達と寄せ書きを交換し終え、そろそろ帰ろうかと考えていた時だった。

「篠崎くん」
 凛とした声に反応して、僕は後ろを振り返る。
 前髪をきれいに切りそろえた小柄な女の子が、黙って僕を睨みつけていた。