「ちなみに、姉ちゃんの連絡先渡すこともできるけど、要る?」
 凌牙さんが、トレーをまとめながら尋ねてきた。
 遥奏の連絡先。
「もちろん、あいつがオーケーって言ったらだけど」

 LINEを交換すれば、いつでも遥奏にメッセージが送れる。電話だってかけられる。
 会うことは叶わなくても、またあの声を聞いて以前のように笑い合えるかも。
 想像すると、心臓が軽やかにスキップし始めた。

 ——けれども。
「いえ、大丈夫です」
 今は、そうすべきではない。直感がそう告げていた。

「ただ、もしよかったら、凌牙さんのLINEをお借りして、遥奏さんに動画のお礼だけ言わせてもらえませんでしょうか。返信不要で、一回切りにしますので」
「いいよ。ただ、もし姉ちゃんから何か返ってきてLINEが続くようなら、もう二人でやってもらうからな」
 どこか冗談っぽく、だけど有無を言わせない口調でそういう凌牙さん。
「もちろんです。ありがとうございます」
 これ以上、凌牙さんに伝書鳩をさせるわけにはいかない。

 それから僕は、凌牙さんのLINEを借りて、簡潔な文章を送った。傷つけてしまったことのお詫びと、動画を含め今までしてくれたことのお礼。最後に、「遥奏の気持ちは動画で伝わったので、返信は不要です」と添えて。

「ありがとうございました」
 頭を下げながら、凌牙さんにスマホを返す。
「とりあえずオレの連絡先は渡しとくからさ、何かあったらメッセージちょうだい」
 凌牙さんはそう言って、僕のLINEのアカウントを友達追加してくれた。

「それじゃ、オレはこれから予定あるから」
 凌牙さんがスマホをポケットにしまい、帰る支度を始める。
「ごちそうさまでした」
 そう言ってまた頭を下げた途端、大事なことを思い出した。
「あの、すみません、最後にひとつだけ」