「ありがとうございました」
 僕は凌牙さんにスマホを返しながら軽く頭を下げた。

「姉ちゃんは、秀翔くんにすごく助けられたんだと思う。二人の間に何があったのか詳しくは聞いてないけど、あんまりあいつのこと悪く思わないでほしいな」
 困ったやつだけどさ、と笑って付け加える凌牙さん。

「僕も」
 凌牙さんのスマホを見つめながら、言葉を返す。
「遥奏さんのおかげで、道が拓けた気がします」
 気づくのが遅すぎたのは否定できない。
 それでも、遥奏との関わりが、胸の奥に閉じ込められていた強い想いを呼び覚ましてくれた。

「そっか、それならよかった」
 凌牙さんが、ほとんど残っていないコーラを飲む。ずずずっと空気の通る音がした。
「あ、そうだ、もうひとつ」
 そう言って、凌牙さんがカバンの中をがさごそと漁り始める。
「これもね、なんかわざとらしくオレの机に置かれててさ。秀翔くん宛で間違いないと思うから、渡しとくわ」
 そう言って凌牙さんが、カバンから袋をひとつ取り出して、僕の手元に置いた。

 青い不織布の袋。サイズは、新書を二冊横に並べた程度だ。細い金のカラータイで口が閉じられている。
 カラータイに、七夕の短冊のような縦長の色紙がつるされていて、『チラシのお礼です!』と書いてあった。

 そういえばそんな話もあったなと思いながら、差し出された袋を手に取ってみる。中には、薄くて硬い直方体状のものが入っているようだった。
「ありがとうございます」
 包装を解かないまま、その「お礼」をカバンに入れた。カラカラっと細かい音を立てながら、それはスケッチブックの隣に収まった。