僕がイヤホンを両耳につけるのと同時に、動画の中の遥奏が一礼した。

 撮影場所は自室のようだったけど、本番を想定したのか、わざわざ高校の制服を着ている。
 洗練された印象を与える、濃い紺色のブレザー。
 首元からは、グレーの襟がぴしっと伸びている。

 原稿を胸の前で広げ、息を吸い込む遥奏。
 その表情は、河川敷で歌う時の姿を思い起こさせた。

「本日は、私達のために立派な入学式を行っていただきありがとうございます」

 画面越しの僕まで気が引き締まる、力強い声。
 希望に満ち溢れ、凛々しい光を放つ大きな瞳。
 学業への意欲を感じさせる、毅然とした表情。
 
 ……ははは、すごいな。
 威風堂々とした遥奏の佇まいを見て、僕は感動すると同時に、心の中で苦笑いした。

 一流の芸術高校に推薦入試で合格し、新入生代表挨拶を担当する遥奏。
 これといった趣味も特技もない、落ちこぼれ卓球部員の僕。

「初めに、私がこの学校に合格するまでの話をさせてください」

 やっぱり、ここでも僕は勘違いしていたんだ。
 君の隣に自分がいるというのは、僕の勝手な思い込み。
 僕はもともと——

「数ヶ月前、私は崖の下の人間でした」

 思考が、白紙に戻された。