「あいつと関わってたら、結構エネルギー使ったでしょ?」
 凌牙さんが楽しそうに笑いながら言った。 
「まあ、行動力ありますよね……」
 身内の前でどういう言い方をしていいのかわからず、ぼかした返事に留める。
「言葉選びがうまいなー!」
 そう言って凌牙さんは、がははと笑った。
 
「あの」
「ん?」
「遥奏……さんは、僕のことをお家で話してたんですか?」
 遥奏と僕の関係がほかの誰かに知られているとなると、なんとも言えない恥ずかしさがある。

「うーん、親に言ったのかはわからないけど、オレには少しだけ話してきたな。ま、それもほんと最近のことで。前の日曜だったかな。あいつが京都に出発した前日」

 あー、やっぱり。
 大方そうだろうと思っていたことが、事実だと確定した。
 遥奏はもう、行ってしまったんだ。

 泣きそうな気持ちから注意をそらすため、僕は凌牙さんに質問を続けた。
「どんなことを話してたんですか?」
直接(・・)聞いたことは、そんなに多くないよ」
 含みのある回答。

「あのミスタードーナツでどうかな?」
 凌牙さんが、横断歩道の先に見える黄色い看板を指差しながら言った。
「いいですね、行きましょう」

 ※ ※ ※

 入店すると、凌牙さんは僕にドーナツひとつとオレンジジュースをご馳走してくれた。
「すみません、ありがとうございます。いただきます」
 テーブル席に着いた僕は、凌牙さんに頭を下げてからチョコファッションをかじった。
「いやいや、ごめんな、こんなお礼しかできなくて!」
 そう言いながらストローを勢いよくグラスに突き刺す凌牙さん。

「今日はね、どうしても秀翔くんに見せたいものがあってさ。あ、イヤホンあったら用意しといて」
 凌牙さんはコーラを一口飲んだ後、スマホを取り出して何やら操作を始めた。僕は言われるがままにスクールバッグからイヤホンを取り出した。

「これだ。ほい」
 凌牙さんが、僕のトレーの隣にスマホを置く。
「これって」
 見慣れた少女の顔が、そこにあった。
「昨日姉ちゃんからLINE来てさ」
 凌牙さんが、どこか楽しそうな顔で説明を続ける。

「なんかな、『入学式の新入生代表挨拶の練習してるから、問題ないか見てみて!』とか言ってこの動画送ってきて。再生してすぐわかったんだけど、見てほしい相手絶対オレじゃないんだよ。それで、『この動画、ほんとにオレが見るだけでいいの?』ってわざと聞いたら、既読無視しやがって」

 凌牙さんが画面をタップすると、動画の読み込みが始まった。
 画面上でぐるぐる回る矢印を眺めていると、イヤホンをつけるように促されたので、僕は凌牙さんのスマホに端子を差し込んだ。

「あ、姉ちゃんの名誉のために言っとくと、新入生代表挨拶に選ばれたのはマジだよ。結構前に学校から連絡来てた。ただ——」

 凌牙さんが、またストローに口をつけてから続ける。

「入学式当日に出席する誰よりも、秀翔くんが聞くべきスピーチだと思う」

 読み込みが終わり、動画が再生された。