その短い自己紹介は、僕の記憶と目の前の人物の姿を重ね合わせるのに十分だった。

 去年の十一月、駅の改札近く。
 遥奏の手を掴んでいた人。
 二度と思い出したくなかった、僕のイタい行動。

「秀翔くんのことを探してたんだよ! よかったー、春休み入っちゃったら余計に探しにくくなるからな」
「探してたって、僕をですか?」
「おう、そうだぜ」
 たった一度会っただけ(それも、僕が一方的に勘違いして失礼な言葉をかけただけ)なのに、僕になんの用事があるんだろう。

「秀翔くん、今、時間ある?」
「あ、はい」
「助かる!」
 そう言って、凌牙さんは快活に微笑んだ。
「立ち話もなんだし、どっか入ろっか」

 そうして、僕らは腰を落ち着けられるところを探して歩き出した。
 道中、凌牙さんの基本的なプロフィールを聞いた。
 二年生で僕の一学年上だということがわかったので、引き続き敬語で話すことにした。
 遥奏とはずっとお互いタメ口で話していたから、弟さんが僕より年上だというのは変な感じがする。

 バスケ部員で、今日は僕に会うためにわざわざ部活を休んだらしい。
 前に駅で会ったときは、たまたま大会の代休で練習がなかったとのことだ。

「あ、そうそう! 秀翔くんのおかげでね、本当に助かったよ!」
「えっと?」
 なんのことか全く心当たりがない。
「チラシ!」
 凌牙さんの唇が横に縦に素早く動いた。
 三文字の単語が、僕の記憶とリンクする。

「オレらの部活のチラシ、秀翔くんが作ってくれたんだよね! あれのおかげで結構部員集まりそうだよ! 今日はそのお礼もかねてさ」
 リョウなんとかさん。
 ……凌牙さん。
 なんだ、「仲良し」というのは、弟のことだったのか。