モノクロの世界に君の声色をのせて

「中途半端に、幽霊部員なんかやっちゃって」
 中途半端。
 毒牙のように僕の胸をえぐる、遥奏の言葉。
「前から思ってたけどさ、秀翔のやってること、めっちゃ周りに迷惑なんじゃないの?」

 ……ふざけるな。
「部費も払ってるんでしょ」
 僕がどんな気持ちでいるのか。
「顧問の先生もさ、扱いに困るじゃん。この子続ける気あんのか——」
「君に何がわかる!」
 思わず、大きな声が出た。
 通りがかったランニング中のおばさんが、ちらりとこちらを見る。

「僕が、毎日どんな思いをしているのか」
 波は、いつもと同じ平和な音を立てている。
「生まれてこのかた、出来損ないの男の子として扱われる気持ちがどんなもんか」
 水面では、普段通り規則的に半円が生まれては消える。
「小さい頃から特技に恵まれた君には、ちっともわからないだろうね!」
 見れば、遥奏は呆然とした表情を浮かべていた。

 言いすぎた。
 それに、とんだ八つ当たりだ。
 理性は全てをわかっていた。
 けれども、一度湧き出た感情は、もう引っ込むことを知らない。
 二度と僕の心に立ち入るな。
 そんな思いを込めて、遥奏を睨みつけた。

『やりたくないなら、正直にそう言えばいいのに』
 部外者だから、そうやって無責任なことが言えるんだ。
 僕の葛藤も苦労も知らずに、懐にずかずか入ってきて。
 遥奏は、いつだってそうだ。
 常に自分のタイミングで、自分の気分で、人の気持ちを考えずに言いたい放題。

「秀翔、ごめん……」
「もういい」
「秀翔!」
「うるさい!」
 干渉してこようとする声を振り払って、踵を返す。
「秀翔! 待って!」
 全速力で芝生を走り、遥奏の声色を僕の世界から消し去った。