「最優秀賞、おめでとうございます!」
 夏休みが明けてしばらく経った、ある秋の日。
 先生の言葉を皮切りに、拍手や祝福の声が教室を満たした。

 僕も、みんなに合わせて手を叩く。
 けれど、両手にうまく力が入らない。

 チカちゃんが、読書感想画コンクールで最優秀賞をとった。
 県内で一番絵が上手な小学一年生だと認められたのだ。僕はそう解釈した。

 それに対して僕はというと、なんの賞にも選ばれなかった。
 僕が夏休みの大半を費やして描いた絵は、誰にも見向きもされなかった。
 たしかに、自分の作品の中でも納得のいく出来ではなくて、提出した時点からあまり自信はなかった。
 それでも、コンクールという形ではっきり差がついたのは、相当身にこたえた。

「すごいね!」
「おめでとう!」
「絵、上手なんだね!」
 休み時間、チカちゃんの机の周りにできた人だかりを呆然と眺める。

 ……なんだよ。
 騙された気分だった。
 ガハクなのはチカちゃんだけなんだ。
 いくら絵が好きで一生懸命描いてても、コンクールに出せば賞を取れるか取れないかという形ではっきりと差がつく。
 そんな現実を、急に叩きつけられた。

 その日からも変わらず、チカちゃんは僕と話をしてくれた。
 けれど僕のほうが、チカちゃんといるのが居心地悪くなってしまった。
 それから僕は少しずつチカちゃんを避けるようになった。

 やがて、学年が上がり、僕らは卒業まで一度も同じクラスにならなかった。
 二人で絵を描いていたあの日々は、僕の中で、そしてたぶんチカちゃんの中でも、遠い昔の記憶となっていた。

 僕は今でも相変わらず毎日のように絵を描き続けているけど、それはただの暇つぶし。
 僕には、「絵を好きだ」と言う資格はないのだから。

 中学一年生になり、彼女と僕は実に六年ぶりに同じクラスになった。
 けれども、僕らが再び親密になることはなかった。
 成長した彼女のクールな佇まいに残る幼い頃の面影が、僕にははっきりと見えた。
 その面影を感じ取るたび、僕の中に煙たいねずみ色の感情が込み上げてきて、まともに話をするどころではない。
 
 偶然にも日直のパートナーになったけど、事務連絡以外で一切言葉を交わすことはなかった。
 彼女と僕は、自然とお互いを「篠崎くん」「笹山さん」と苗字で呼び合っていた。