僕が戻ったのと遥奏が通話を終えたのは、ほぼ同時だった。

「電話ママだったんだけど、今日家に誰もいないから夕飯は適当に済ませてだって。あーあ、せっかく遅くまで遊べるのになー! こんな日に限って館内清掃だなんて。てか、秀翔どこ行って……」

 僕の右手にぶら下がった紙袋を見て、遥奏が言葉を止める。

「持ち帰りはできたよ」
 僕は、紙袋を遥奏の前に突き出しながら言った。
「罰ゲームを残したまま日を跨ぎたくないからさ。いつもの河川敷で食べよう」

 それを聞いた遥奏は、心底驚いた顔で僕を見ていた。
「あの、君、ほんとに秀翔だよね?」
「何言ってるの? 僕だよ」
「だって、秀翔から、何か誘ってくれるなんて」
 遥奏が、泣きそうな声で笑った。
「信じられないけど、すっごくうれしい!」

 そうして僕らは出口に向かって歩き始めた。

 足を動かすたび、紙袋の中でドーナツが飛び跳ねた。