——ということで、僕は今は騒がしいゲームセンターの中にいる。

 遥奏が指差したのがどんなゲームなのか確かめるため、画面に映っているデモ映像を数秒眺めた。
 音楽に合わせて画面上部から次々と長方形のブロックが流れてくる。下のほうに白い線があって、それにブロックが差し掛かるタイミングでそのブロックと同じ色のボタンを押すと、スコアがたまるらしい。

 いわゆるリズムゲームというやつか。
 遥奏は経験者とのことだったけど、僕は初めてプレイするので、まずチュートリアルを受けた。

「でね、この黄色いボタンが……」
「ちょっと静かにして」
 右隣から遥奏がチュートリアルと全く同じ内容を説明してきたけど、画面の説明の方が何倍もわかりやすかったので、少し黙ってもらった。
 僕が残りの説明を聞いている間、遥奏はぷくっと頬を膨らませて不満そうに僕の横顔を見ていた。

 二分ほどのわかりやすいチュートリアルを終えると、遥奏がテキパキと設定を進めてくれて、ゲームがスタートされた。
 画面の左上と右上に、それぞれ『0』という数字。
 イントロ、鍵盤の音が三回。正確なタイミングでボタンを押すと、スコアが加算されて、『0』だった数字が『30』になった。画面右上の遥奏のスコアも同じ『30』。ここまで互角。
 前奏の簡単なリズムをクリアしていく。Aメロも規則的だった。ここまでは抜きつ抜かれつのほぼ同じ得点。
 曲がBメロに入ると、ややリズムが不規則になって、複数のボタンを同時に押さないといけないことも増えた。僕のリズム感では対応しきれなくなる。
 ちらっと横を見ると、遥奏は複雑なリズムに合わせて正確にボタンを叩いていた。
 すごい。
 素直にそう思った。やっぱり、音楽やってる人はこういうゲームも得意なんだろうか。

 曲が終わってみると、前半の健闘が嘘のように僕は完敗していた。
「やった!」
 得意げにピースサインを向けてくる遥奏。ゲームなんかどうでもいいと思って始めたけど、実際に負けると、なんだかちょっと悔しい。

「まず私が一勝だね! 先に三勝した方が勝ちだから、私があと二回勝ったらドーナツは秀翔のおごり!」
「いつ決まったんだよ、そのルール」
「今だよっ!」
 そう言ってニコッと笑う遥奏。
「次は秀翔がゲーム選んで!」

 蛍光色のノイズで充満したゲームセンターの中でも、その声色は僕の鼓膜を鮮やかに染めた。