僕らはコンクリート製の階段を離れて、砂利場へ移動した。
 サイズや形の様々な石ころがたくさん落ちている。
 遥奏がその中からひとつを拾って、水面に投げた。
 石は、水面で三回跳ねたあと、川の中へ沈んでいった。

「すごいでしょ!」
 遥奏がにっこり笑ってピースする。
「うん、すごいね」
「さあ、秀翔もチャレンジ!」

 そう言われた僕は、足下から適当に石を拾って、見よう見まねで水面に投げてみた。
 石は、一回も跳ねずに、水中に沈んでいく。
「秀翔、もしかして石切初めて?」
「うん」
「じゃ、私が教えてあげる!」
 親指を立てて右手を突き出す遥奏。

「まずね、ひらぺったい石を選んだほうがいいんだよ。例えば、これ」
 遥奏がかがんで地面から石を拾い、僕に見せる。
 形は、ざっくり言って平行四辺形。縦から見ると少しいびつだけど、石ころとしては「ひらぺったい」部類だろう。
「そんでね、なるべくひくーい位置から投げる」
 遥奏が、スカートの裾をめくって地面に膝をついた。
 石を持った右腕を後ろに大きく引き、素早く振り切る。
 石は、また三回跳ねた。
「だいたいこんな感じ! 秀翔もやってみて!」

 遥奏に言われた通り、平たい石を探してみた。すると、五百円玉を一回り大きくしたような形の石が見つかった。
「いいね! それ、いけると思う!」
 さっきの遥奏の動作の真似をして、右腕を後ろに引く。そして、なるべく水平になるように意識して、投げた。

 今度は、石が二つの水しぶきを生み出した。
 初めて石を跳ねさせることができた嬉しさと、二回って大したことないんじゃないかという不安が、胸の中でせめぎあった。

「やったね! その調子!」
 僕を褒め称える遥奏の笑顔は、今日の青空のように爽やかに見えた。
「よっしゃ! 私も頑張るぞ!」
 いつのまにかまた平たい石を見つけていた遥奏が、地面に膝をついて構える。

 楽しそうなその横顔を見ながら、僕はチラシを受け取った時の遥奏の言葉を
思い出していた。
 バスケ部の「リョウなんとか」さんが石を投げたら、それは水面で何回跳ねるんだろう。

 遥奏の右腕が、大きく弧を描いた。
 石が遥奏の右手から弾丸のように飛び出し、少し淀んだ水の上をかすめる。
 水面で、五つの水しぶきが輪唱した。
 すごい。
「やった! 五回行ったの久しぶり!」
 遥奏が、グーにした両手を叩いて喜んだ。

「すごいね」
 僕も遥奏に同調して拍手する。
 両手が重なるたび、石の感触の残る右手に鈍い痛みが走った。

 今日の太陽は、何者にも邪魔されずに水面を照らし続けていた。