弟さんが去ったあと、僕は遥奏に連れられて駅から数分のドーナツ店に入り、テーブル席に腰を落ち着けていた。
知らないお店だった。たぶんチェーン店ではない。
弟さんとの一件で気力を使い果たしてしまっていた僕は、店内の席にたどり着くなり、へなへなと座り込んでしまった。
僕が動けないのを見て、遥奏が二名分のオーダーをしてきてくれた。
「ごめん、余計なことして」
遥奏からお釣りを受け取りながら、僕は謝る。
時間を巻き戻して、全部無かったことにしたい。
「いいのいいの! どのみち邪魔だったし!」
そう言って笑いながらブラックコーヒーをすする遥奏。
僕も、グラスにストローを差して、遥奏が注文してきてくれたオレンジジュースを一口飲む。
濃厚な果汁を体に入れると、少し気力が回復した。
「ここのドーナツめちゃくちゃおいしいからさ、早く食べてみて!」
チョコファッションを頬張りながら遥奏が言う。
僕は、グラスをトレーに置いて、遥奏が注文してきてくれたポン・デ・リングをかじってみた。
「うん、おいしい」
「でしょ! ここ、私のイチオシ!」
遥奏の言う通りだった。程よい甘さ、もちもちした感触が癖になる。
僕は普段ドーナツはほとんど食べないから他のお店との比較はできないけど、たしかにおいしかった。
「私さ、ドーナツ巡りが趣味なんだよね!」
「他にもいろいろ回ってるの?」
「ううん! 今のところは、こことミスター・ドーナツくらい!」
「なんだよそれ!」
思わずツッコミを入れる。
だって、「なんとか巡りが趣味」って聞くと、インスタに何百というお店のレビューを載せている人たちのことを思い浮かべるから。
「それ、趣味って言えるの?」
「言えるよ!」
思いの他真剣な声で言い返してくる遥奏。
射るような目で見られて、思わず上体を後ろに引く。
「私が趣味だと思ったら趣味なんだよ! これからいろいろ巡るんだし!」
そんな考え方もあるのか。
でもそれってやっぱり、ドーナツが好きで好きで、ドーナツのことなら何でも知ってますみたいな人からすると、失礼に感じるんじゃないかな。
「秀翔も一緒にいろんなとこ回ろうね!」
「あー、うん」
曖昧な返事を返す。「約束だよ!」と言って遥奏はニコッと笑った。
知らないお店だった。たぶんチェーン店ではない。
弟さんとの一件で気力を使い果たしてしまっていた僕は、店内の席にたどり着くなり、へなへなと座り込んでしまった。
僕が動けないのを見て、遥奏が二名分のオーダーをしてきてくれた。
「ごめん、余計なことして」
遥奏からお釣りを受け取りながら、僕は謝る。
時間を巻き戻して、全部無かったことにしたい。
「いいのいいの! どのみち邪魔だったし!」
そう言って笑いながらブラックコーヒーをすする遥奏。
僕も、グラスにストローを差して、遥奏が注文してきてくれたオレンジジュースを一口飲む。
濃厚な果汁を体に入れると、少し気力が回復した。
「ここのドーナツめちゃくちゃおいしいからさ、早く食べてみて!」
チョコファッションを頬張りながら遥奏が言う。
僕は、グラスをトレーに置いて、遥奏が注文してきてくれたポン・デ・リングをかじってみた。
「うん、おいしい」
「でしょ! ここ、私のイチオシ!」
遥奏の言う通りだった。程よい甘さ、もちもちした感触が癖になる。
僕は普段ドーナツはほとんど食べないから他のお店との比較はできないけど、たしかにおいしかった。
「私さ、ドーナツ巡りが趣味なんだよね!」
「他にもいろいろ回ってるの?」
「ううん! 今のところは、こことミスター・ドーナツくらい!」
「なんだよそれ!」
思わずツッコミを入れる。
だって、「なんとか巡りが趣味」って聞くと、インスタに何百というお店のレビューを載せている人たちのことを思い浮かべるから。
「それ、趣味って言えるの?」
「言えるよ!」
思いの他真剣な声で言い返してくる遥奏。
射るような目で見られて、思わず上体を後ろに引く。
「私が趣味だと思ったら趣味なんだよ! これからいろいろ巡るんだし!」
そんな考え方もあるのか。
でもそれってやっぱり、ドーナツが好きで好きで、ドーナツのことなら何でも知ってますみたいな人からすると、失礼に感じるんじゃないかな。
「秀翔も一緒にいろんなとこ回ろうね!」
「あー、うん」
曖昧な返事を返す。「約束だよ!」と言って遥奏はニコッと笑った。