河川敷に着くと、今日は遥奏が先に姿を現していた。
「やっほー、秀翔! 宝物、描いてきてくれた?」
早速聞いてきた遥奏に、僕は昨日描いた絵を見せた。
遥奏が僕の隣に座って、画用紙を見る。
「かわいい!」
僕の描いたキーホルダーを目にするなり、顔を輝かせる遥奏。
「これ、何かのキャラクターなの?」
「うん、そ、そう」
「なんの?」
曖昧に終わらせようとしたけど、遥奏は追い討ちをかけてきた。
幼稚園の頃にハマってた絵本のキャラクターだなんて、恥ずかしい。
普段の僕なら、適当に誤魔化していただろう。
けど、遥奏は別に学校のクラスメートじゃないし、別にここでどう思われても気にする必要はない。
それに、遥奏なら、バカにしてくるようなことはない気がする。
誤魔化す必要はないと考えた僕は、簡単にぴょんくんの由来を説明した。
「そうなんだ! 素敵! 幼稚園の頃からずっと大切にしてるって、秀翔、物持ちいいんだね!」
「そうかな」
全身全霊で褒められると、やっぱりまごついてしまう。
けれど、ほんとうのことを話しても何もネガティブなことを言われなかったことで、ちょっと安心したのも事実。
それから遥奏はキーホルダーについていくつか質問してきたあと、満足したらしく立ち上がった。
「ねえ秀翔、私今日もここで歌うから聴いててね!」
「どうぞ、お構いなく」
いつものように、川に体を向ける遥奏。
だけど、今日は歌う前にひとつ動作が追加されていた。
スクールバッグのファスナーを開けたかと思うと、中から取り出したのは、スマートフォン。白い本体に、丸みを帯びた青緑色のケース。
左手でそれを持ち、右手の人差し指で操作し始めた。
「えーっと、これでいいのかなっと」
僕は絵を描き始めようと思ったけど、斜め前の遥奏が何をしているのか気になって、その様子を観察する。
「あ、あー」
遥奏はスマホに顔を近づけて声を出し、そしてまた画面を何回かタップした。
『あ、あー』
くぐもった音で、つい今しがたの遥奏の声が再生される。
「録音?」
遥奏の横顔に問いかける。
「うん、自分の声を聞いて、どこがもっと良くできるかなって考えたくてさ」
「トレーニングしたいならさ、ここで歌うよりも音楽の先生に見てもらったりしたほうがいいんじゃないの?」
「音楽の先生には、お昼休みに見てもらってるよ! 放課後はどうしても忙しいらしくて」
「ふーん」
だからといって、ここで僕に歌を聴かせることで遥奏にとってメリットがあるとは思えなかったけど。
それから遥奏は、一曲歌っては録音を聞き、頭をひねって、特定のフレーズだけを繰り返し歌い、また録音を聴いて、また全体を歌って、ということを繰り返していた。
ときどき「ねえ、どう?」「さっきとどっちが好き?」なんて聴いてきたから、「いいと思う……僕は」「今の方が個人的には好き」とか、失礼にならないように、大袈裟にならないように、無難に聞こえるように感想を伝えた。その度に遥奏は、グーにした両手を叩いて喜んだ。
そんな時間が続いて、十五分ほど経っただろうか。
青色と水色を重ねて、画用紙の上の水面の色合いを調整していた時。
後ろから、中高生っぽい男の子の集団の賑やかな声がした。
河川敷で聞こえる他人の声を気にすることは、普段はない。
でも、その声はなぜか、僕の脳内のセンサーを赤く点滅させた。
「やっほー、秀翔! 宝物、描いてきてくれた?」
早速聞いてきた遥奏に、僕は昨日描いた絵を見せた。
遥奏が僕の隣に座って、画用紙を見る。
「かわいい!」
僕の描いたキーホルダーを目にするなり、顔を輝かせる遥奏。
「これ、何かのキャラクターなの?」
「うん、そ、そう」
「なんの?」
曖昧に終わらせようとしたけど、遥奏は追い討ちをかけてきた。
幼稚園の頃にハマってた絵本のキャラクターだなんて、恥ずかしい。
普段の僕なら、適当に誤魔化していただろう。
けど、遥奏は別に学校のクラスメートじゃないし、別にここでどう思われても気にする必要はない。
それに、遥奏なら、バカにしてくるようなことはない気がする。
誤魔化す必要はないと考えた僕は、簡単にぴょんくんの由来を説明した。
「そうなんだ! 素敵! 幼稚園の頃からずっと大切にしてるって、秀翔、物持ちいいんだね!」
「そうかな」
全身全霊で褒められると、やっぱりまごついてしまう。
けれど、ほんとうのことを話しても何もネガティブなことを言われなかったことで、ちょっと安心したのも事実。
それから遥奏はキーホルダーについていくつか質問してきたあと、満足したらしく立ち上がった。
「ねえ秀翔、私今日もここで歌うから聴いててね!」
「どうぞ、お構いなく」
いつものように、川に体を向ける遥奏。
だけど、今日は歌う前にひとつ動作が追加されていた。
スクールバッグのファスナーを開けたかと思うと、中から取り出したのは、スマートフォン。白い本体に、丸みを帯びた青緑色のケース。
左手でそれを持ち、右手の人差し指で操作し始めた。
「えーっと、これでいいのかなっと」
僕は絵を描き始めようと思ったけど、斜め前の遥奏が何をしているのか気になって、その様子を観察する。
「あ、あー」
遥奏はスマホに顔を近づけて声を出し、そしてまた画面を何回かタップした。
『あ、あー』
くぐもった音で、つい今しがたの遥奏の声が再生される。
「録音?」
遥奏の横顔に問いかける。
「うん、自分の声を聞いて、どこがもっと良くできるかなって考えたくてさ」
「トレーニングしたいならさ、ここで歌うよりも音楽の先生に見てもらったりしたほうがいいんじゃないの?」
「音楽の先生には、お昼休みに見てもらってるよ! 放課後はどうしても忙しいらしくて」
「ふーん」
だからといって、ここで僕に歌を聴かせることで遥奏にとってメリットがあるとは思えなかったけど。
それから遥奏は、一曲歌っては録音を聞き、頭をひねって、特定のフレーズだけを繰り返し歌い、また録音を聴いて、また全体を歌って、ということを繰り返していた。
ときどき「ねえ、どう?」「さっきとどっちが好き?」なんて聴いてきたから、「いいと思う……僕は」「今の方が個人的には好き」とか、失礼にならないように、大袈裟にならないように、無難に聞こえるように感想を伝えた。その度に遥奏は、グーにした両手を叩いて喜んだ。
そんな時間が続いて、十五分ほど経っただろうか。
青色と水色を重ねて、画用紙の上の水面の色合いを調整していた時。
後ろから、中高生っぽい男の子の集団の賑やかな声がした。
河川敷で聞こえる他人の声を気にすることは、普段はない。
でも、その声はなぜか、僕の脳内のセンサーを赤く点滅させた。