美術館か。

 放課後、校舎の階段を降りながら、水島くんと交わした約束について考える。

 そもそも、友達と休日に出かけるという機会が普段ほとんどなくて、ちょっと不安。
 怖がることではないとわかっているのに、頭の中がそわそわする。
 水島くんの勢いに押される形で簡単に頷いてしまったけど、料金どれくらいなんだろう。僕のお小遣いで払えるくらいの金額なんだろうか。
 まあでも、美術館って印象良い場所だし、足りなかったら母さんに話せばもらえるはず。

 水島くんは、転校してすぐに入部したテニス部の練習に加え、いくつか習い事もしているとのこと。土日もスケジュールが詰まっているらしくて、美術館に行くのは少し先になった。

「すみません、今日は塾の見学に行くので」
 いつも通り職員室に向かい、片桐先生に欠席を告げた。
 部活を初めてサボった日は、底知れぬ後ろめたさを感じたことを覚えている。
 だけど、二日、三日と続けて休むに連れて、その後ろめたさは二分の一、三分の一、とどんどんしぼんでいった。最近学校で習ったんだけど、二つの数のこういう関係性を「反比例」というらしい。

 昇降口を出て、玄関前の階段を降りようと足を踏み出した時だった。
「今日の部活、外ランでさ。だるいわー」
 聞き覚えのある声がして身が固まる。
 卓球部の先輩だ。
 ゴミ袋を持って、同級生らしき男子生徒と歩いている。そして、落ち葉やゴミを見つけてはトングでつまんで拾っていた。
 美化委員会か何かの活動だろうか。
 普段正門前で卓球部の人と鉢合わせすることはなかったから、油断していた。

 僕は校舎の玄関の柱に隠れてやり過ごしてから、正門へ向かう。
 追い風に煽られて、少しばかり早足で河川敷へ向かった。